人の姿の蛍

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人の姿の蛍

 そして、私も9月には結婚をする。    笑顔の素敵な優しい男性と。  久しぶりに来た、この場所。  だけど、10年前とは違っていた。  蛍の見えるキャンプ場は、メディアや口コミの影響で、一時は予約が取れないほど、沢山の観光客が来て居たが、その反面、マナーの悪い観光客がゴミを置いていったり、洗い場が少ないせいで、川で洗い場をする人が居たりで、どんどん川も周りも汚染されていき、とうとう、蛍が生育出来ない環境になり、2年前に、このキャンプ場は閉鎖した。  そして、それと同時に、ここを経営していた観光業者も多額の負債を抱え倒産した。  地元の人は、  「蛍を見せ物にした、蛍の呪いだと」っと言い、  業者は、  「観光ばっかり重視して、蛍の環境保護をしなかった地元の人が悪い」っと言い、対立してた様子をテレビで見た気がする。  それを見て、私は、  (どっちが悪いとは言えないけど、出来たら、観光も蛍も両立して欲しかった)っと思ってた。  私は、荒れ果てたキャンプ場へと歩き、小川の方へ向かう。   ここは、夜になると、他県から来る若い男女が肝試しに来るらしくて、ますます荒れ放題になってる。  (これじゃ、蛍も出て来ないよね)っとため息混じりに思いながら歩るく、夕方にはなってるが、夏だからまだ明るい。  川の水は、濁り、ゴミが浮いてる所もある。  (ここで10年前は水遊びしてたのに、今は絶対に無理だよね)っと川を見ながら思い、山の方へと歩く。  (山の中には入らない方が良いよね、何かあったら隆さんに心配かけちゃうし)っと思い、山の近くの川の近くに、レジャーマットを敷き、暗くなるのを待つ。  待ってる間、ここで見た蛍の風景を思いだしていた。  満天の星に蛍の光が本当に綺麗で、きっと今してる、この指輪と変わらない輝きがそこにあったんだ。  でも、今は、その面影は何処に無い、暗くなってきて、私の気持ちも何故が暗くなってきた、この暗闇の様に、私のこれからも不安でいっぱいで何があるか分からなくて、それでも前に進まなくちゃいけなくて、  (何だろう、結婚って凄く幸せな事なのに、不安にもなる、もしかしてこれがマリッジブルーなの)っと思い、立ち上がりブンブンっと頭を横に振り、不安な思いを消す。  (帰ろう、車免許取って浅いから、夜の運転不安だし、レンタカーだから)っと思い、キャンプ場の方へと戻る。  「やっぱり、会えなかったな、蛍の君に。」っと呟きながら、歩いていると、何かにつまづき、転んだ。  「痛い。もう、こんな所にもゴミがあるなんて」っと言うと、何故が大した怪我でも無いのに涙が出そうになる。  その思いを止め、立ち上がろうとすると、薄白い手が私の前に差しだされる。  まさか、っと思い、顔を上げると、そこには、長髪の綺麗な顔立ちの男の人が、  「蛍の君」っと聞こえない声で言うと、その男の人は、  ニコッと笑顔で私を見る。  そう、それは、10年前に見た変わらない笑顔だった、ただ、その姿は、今にも消えそうな位に透けていて、あの温かった光も弱々しかった。  「あなたは蛍なの?」っと私が一番聞きたかった事を聞いた。  その問いに男の人は、コクッと頷き笑顔を見せた。  その答えに胸が熱くなり、私は、    「10年前は、側に居てくれて、ありがとう。あなたが居たから、私は今ここに居るんだよ。本当にありがとう。」っと言う私に、 今にも消えそうな笑顔で私を見る。  その様子に私は、会えた嬉しさと、もう消えて二度会えない寂しさで胸が苦しくなり、泣きそうになりながら、  「私、9月に結婚するの、笑顔が蛍の君に似てる素敵な男性と、だから、私、もう一度会いたかった、そして、蛍の君の事が好きだったから、ちゃんと報告したかったの。」っと消えそうな蛍の君に一生懸命に言うと、蛍の君は、消えそうなその手で私の頬を触る。  「ありがとう、蛍の君、出会えて良かったよ、今度は、新しい家族とこの場所に来るからね、その時又会おうね。」っといつの間にか流してた涙を拭い、笑顔で言うと、  ニコッっと私の好きな笑顔を見せ消えた。    そして、私の周りには、あの時と同じく、弱々しくも、蛍の光が集まっていた、まるで私の結婚を祝福するように。  「ありがとう。蛍。」私は蛍の優しい光のおかげでさっきまでの不安も何処に消えていた。  そして、その時気がついた、10年前、何故私の側に居たのかを、それは、怪我をした私が不安にならないように。  きっと、その蛍の優しさのおかげで今の私が居て、素敵な男性と出会えたんだね。  私は、温かい気持ちのまま、キャンプ場を後にして、  「又、来るからね。」っと言い車に乗った。 
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