2

7/9
前へ
/22ページ
次へ
 それどういう意味ですか、と言おうとした。俺にだって恥ずかしいという感情は持ち合わせている。だから言おうとした。が、言えなかった。助手席の外から鈍い音がした。車体が少し揺れた気がした。「ひ」と白波君が小さく悲鳴を上げて俺の右肩に縋り付く。二郎君にもされたことないのに。俺は声が出なかった。びっくりすると声が出ないタイプ。それに白波君が俺以上に驚いて怖がっていたので少し冷静になれた。スマートフォンを出して白波君の手を優しめに払いながら車を出る。スマートフォンのライトを点けて足元を照らしながらドアを閉めた。ドアを見遣ると少しへこんでいる。何かがぶつかったようだ。再び足元を見る。何かが蠢いているのが視界の端に見えてスマートフォンのライトを向けた。始めは何だかわからなかった。顔を近付けて目を細める。虫だ。大きい。仰向けになって6本の脚を動かしている。野球のボールぐらいありそうだなと思い、これが白波君の言う火の玉の正体かもしれないと気が付いた。足を伸ばしてスニーカーの先で虫を突く。俺が弄ったことで勢いを得た虫が体を反転させた。背中が赤みを帯びてくる。やばいと思った時には死にかけのセミが突然生きる気力を得て飛び立つように目の前から消えた。速い。上空に飛び立った虫は農道をややふらつきながらも東へ向かっている。俺はスマートフォンで星口丈晴さんの電話番号を呼び出し通話ボタンを押した。助手席のドアを開けて白波君にスマートフォンを投げる。
/22ページ

最初のコメントを投稿しよう!

4人が本棚に入れています
本棚に追加