4人が本棚に入れています
本棚に追加
「電話で今の状況を説明してください。俺はあれを追いかけます」
「追いかけるのかよ」
「二郎君には絶対に連絡しないでください」
「なんで」
「なんでも」
プレスカブに駆け寄り軍手を嵌めてヘルメットを被る。顎紐を締める余裕がなかった。エンジンを掛け発進した。赤くぼんやり光る虫は火の玉に見えなくもない。そのうち虫は農道を外れて田んぼの真ん中を漂い始めた。プレスカブを下りてヘルメットを外し、カブの弱いライトを頼りに田んぼに下りた。頭の上を飛ぶでかい虫。とりあえず追える所まで追って丈晴さんに報告しようと思った。懐中電灯ぐらい持って来れば良かった。暗くて虫の全体像が掴めない。朝まで追いかけるのは無理だ。眠すぎる。俺に常に付き纏う眠気は急に気を失うようなものではない。耐え難い強い眠気というだけ。歩いている最中にいきなり倒れ込んで眠ってしまうということはない。ただ、このままだと立ち寝しかねないしカブの走行中に寝てしまう可能性もある。追い掛けるのを白波君に頼むべきだったか。いや彼ではビビって駄目だったな。せめて丈晴さんにまともに報告できるくらいにはこいつを把握しないと。どうする。
最初のコメントを投稿しよう!