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突然ふらふらと飛び回っていた虫がこちらに向かって来た。急に人間を敵と見なしたように、ふらついていたのが嘘のようにまっすぐと。俺は咄嗟に左手を伸ばした。手の平に衝撃が走る。肘どころか肩まで痺れた。痛みと熱さに堪えながら虫を地面に叩き付ける。虫は動かなくなった。まだわずかに体が赤い。俺はそのまま座り込んだ。大きく息を吐くと白くなって暗い空気に消えていく。左手が熱くヒリヒリする。軍手を外したかったがこの場合は外すと火傷が悪化するような気もする。頬に冷たいものを感じて見上げると白くて小さなものが漂っている。雪だ。多分初雪。まだ僅かに赤い虫の背中に雪が当たって小さく音を立てている。蒸発しているのかな。眠気が強くなってきた。少し寝ちゃおうかな。仰向けに寝転ぶ。結構気持ちがいい。誰も来なかったら凍死するかもなと思ったし左手もそれなりに痛かったが眠気に抗えなかった。目を閉じるとすぐに意識がなくなった。
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