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「痛い」呟く俺を尻目に白波君は満足げな顔をしていた。それから白波君はカエルのような緑色のフィットハイブリッドに乗って帰って行った。結局ほとんど会話をせずにキャッチボールしかしなかった。冬至が近付く12月の空は午後6時で既に暗く、土が剥き出しの田んぼに暗い影を落としていた。雪はまだ降っていなかった。いつまでカブに乗れるかなと思いながらネックウォーマーを着けて綿の入ったジャケットを着込みファスナーを首まで上げた。寒さ対策としてプレスカブに取り付けたナックルガードは純正ではないためやや不格好ではあるが、これがあるのとないのでは手に感じる寒さが段違いだ。星口玩具の社屋は駅の東側にある田んぼの真ん中に建てられていて徒歩圏内にはスーパーもコンビニもない。最寄りのコンビニは2km先。2kmであれば二郎君なら歩くだろうが俺は歩かない。そんなわけでプレスカブで向かうことにする。左手に隣町の明かりを見ながらダラダラと長い農道を走る。左手の痺れは寒さのせいか白波君のボールを受けたせいかよくわからない。やっぱり彼のボールは速いなと改めて思った。家族ともまともにキャッチボールなどしたことはなかったから比べる対象がないのは残念だが。
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