前日入院と手術当日

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前日入院と手術当日

 手術を受けたのは、8月の初旬。コロナが爆発的に増える前でした。  入院は、手術の前日。 朝10時に入院すべく、家を8時過ぎに出ました。  手術を受ける大きな病院は、矯正歯科よりさらに遠く、スムーズにいっても片道1時間くらいかかります。  しかも私は地元じゃないので、地の利ゼロ!  結婚して9年ですが、9年間地の利ゼロを貫いています。スーパーに行ければ困らないんで、色んな場所の位置を覚えることに興味が無いんだと思います。 (単純にものすごい方向音痴なだけです)  道を覚えるためにと運転しましたが、全く覚えられず。 訳が分からないまま、病院に到着しました。 「あぁ...行きたくねぇ......」 連れはため息とこれを繰り返していました。PCR検査は数日前に唾液で検査済み。体調は気分以外万全です。  この手術を乗り切ったら、口を噛む回数も減って噛み合わせも今より良くなるハズと言い聞かせていざ病院へ!  いつも激混みの立体駐車場の空きを見つけて、バックで駐車。でっかいリュックと旅行カバンを私が持ち、連れは松葉杖を使いながら病院に入ります。  院内に入って受付をしたら、病棟に進むよう言われました。 人が沢山行き来する院内を進み、病棟に続く廊下を進みます。  院内は混んでますが、病棟に用事がある人は極わずか。病棟への渡り廊下に入った途端、人が疎らになって歩きやすかったです。  病棟の入口には守衛さんがいるカウンターがあり、守衛さんから紙を貰ってコロナにかかっている可能性の有無を記入。 検温をして、中に入りました。  連れの入院する病棟は、エレベーターを使って入ります。  連れはそのまま、私は入院付き添いの名札をぶら下げて病棟に入りました。  指定された階につき、ナースステーションの受付の方に本日入院の旨を伝えます。 すぐに対応してもらえて、談話スペースに案内してもらいました。  大きな病院だけあって、談話スペースはとても明るくて居心地が良さそうな雰囲気。 椅子もテーブルも綺麗で、スペース右側はガラス張りになっていて外がよく見え、清潔感があります。  しばらく待機していると、担当の看護師さんがやって来ました。 希望を出していた部屋に空きがでず、連れは1番いい個室に入ることに決定。 荷物はかなり重かったけど、看護師さんが持っていってくれました。  一通りの入院説明を受け、明日の手術の話に入ります。 「明日の手術開始予定は、9時です。なので、8時半位にご本人様と談話スペースで少し話したあとは待機していただきます」 8時半、てことは7時くらいに家を出て...なんて考えながら、私は頷いていました。  明日の日程を聞いて、「では」と看護師さんから退場を促されます。  別れを惜しむ間なんて、長く用意してくれません。コロナが蔓延しているから仕方ないと思う反面、やはり心配は尽きないのが私の本心です。 「なんか必要なもんがあったら、連絡してくれたら明日持ってくから」 私の心配を他所に、なんだか連れはケロッとしてるように見えて憎い奴めと思いました。 「明日何時に来る?」 連れから聞かれ、私は一旦うーんと悩むふりをします。こういう時即答すると、大体否定される確率が高いからです。 「7時半くらいに家を出ようかと思ってるけど」 「それだと橋が混んで渡れんよ?」 病院に行く途中、大きな橋がかかっています。その橋が混むなんて地元情報、こちとら知らんのです。 「んたら何時に家出ようか?」 知らんがなと言ったところで、雰囲気が悪くなるだけなのは、結婚9年で学習済み。連れの指示を待ちます。 「そうやなぁ......。5時半くらいかな」 「5時半?!」 まさかの時間に、声がひっくり返っちゃった私。奥二重のほっせぇ目が近年で1番でっかくなってたと思うくらい、目を見開いてました。 「それくらいなら混まんから」 ケロッとしてる連れ。 「朝何時に病院開くん?」 「7時くらいかな」 「んたら、待っとく間に車の中で朝ごはん食べとくわ」 「うん」 これ以上長居すると、看護師さんからの圧に耐えられません。ここが潮時、私は帰宅です。 「んたら、明日行くから」 「うん。ありがとう」 とりあえず笑顔で別れ、帰宅しました。  家に連れがいないのは久しぶり。  リビングが広く感じます。  いつも寝そべってゲームをしていた場所は、レースカーテンの向こうから差し込む夏の太陽光で白く照らさるばかり。 ーこんなに広かったっけ、ここ。 連れが休職し始めて、毎日テレビがつきっぱなしだったリビング。 今はテレビもついておらず、ちょっと離れた場所にある国道を走る車とトラックの走行音とクマゼミの声だけが耳に入ってきます。  いつも時間がかかる夕食作りも、私一人だからと帰り途中で買ったコンビニのパンだけで済ませました。  お風呂もさっさと入って、テレビはつけず耳を休めます。  快適なはずなのに、落ち着かない。  寝なきゃならないのに、上手く眠れない。  隣にいるはずの人が居ないだけで、こんなに生活が変わっちゃうのかと思いつつ、結局仕事をすることに。  連れは21時過ぎに「疲れたから寝る」と、早々にメールも終えたため、仕事が捗りました。  翌朝、5時。何時に寝たか覚えてないけど、5時には起きました。律儀な体で助かります。  さっさと着替えて身支度を済ませ、昨日買ったコンビニのパンを持っていざ出発!  連れが入院してる大きな病院へのルートはいくつかありますが、何故かカーナビはどのルートを選択してもバイパスに乗りたがるから、さぁ大変。 私は絶対バイパスなんて、乗りたくないのです。怖いやん、バイパス。合流とかマジで命懸け。それくらいバイパスは嫌いです。  なんとかバイパスを避けて運転してたはずなのに、気づけばバイパスの入口。 「乗るやんバイパス!ちょっと!!」 激おこですが、後戻りできる訳もなく、泣きながらバイパスに乗りました。  生きた心地がしないまま運転して、口の中がカラカラ。汗だくになりながら、なんとか病院に到着。  家を出る前に連絡したから、到着後すぐ連れに連絡。朝ごはんはまだのようで、お先に私は車の中でパンで腹ごしらえ。  パンは好きですが、何故か私まで緊張してしまい、好きなはずのチュロスを残してカバンに突っ込んで病院へ。  病院が開く前に車を出たにも関わらず、既に行列が出来ていました。  まさか列ができるなんてこれっぽっちも思わず、呆然としつつも並びます。「この病院、混むのよ」と、前に並んでたご婦人から声をかけられて立ち話をしながら時間を潰しました。  コロナは9月ほど爆発的に増えなかったけど、8月頭は人数増加傾向の時期。まぁまぁな密の列に並ぶこと10分あまり、入口が開いて列が流れ始めました。  流れ始めれば、あとはスムーズに院内へ。  私は病棟へ行くため、守衛さんに挨拶をして前日と同じ用紙に記入を済ませて『手術付き添い』の名札を首から提げます。  エレベーターに乗って、昨日も行った病棟のナースステーションへ。到着したら、ステーション内には主治医の先生がいました。  先生と少し話をして、談話スペースで待機してると、なんと看護師さんに車椅子を押してもらって連れ登場。 「車椅子やん」 「足が痛かったから」 なんでもないやり取りを一瞬だけして、すぐに連れは手術室に運ばれていきました。  手術は概ね3~4時間の予定とのことで、終了時にはお昼を回っています。  私は毎日昼に薬を飲んでるので、病院の地下にあるコンビニ前のスペースで時間を潰すことにしました。  手術が終わったら、看護師さんか主治医から電話がかかってきます。 それまで、しばし休憩。 とはいっても、心休まるはずもなく......。 朝残したチュロスの残りをかじったり、薬を飲んだりしつつ長い時間を過ごしました。  自分が手術を受ける時なんか、全く苦じゃないのに不思議ですよね。 病院やから、なんかあっても大丈夫。って何度自分に言い聞かせたことか。  結局落ち着かないままトイレに行くのも忘れ、ずっと緊張して挙動不審のまま昼がすぎました。  それそろかなぁ......と思い始めて、約1時間後。14時過ぎに電話が入りました。 電話の主は主治医で、外来で連れの様子を話すとのこと。緊張しながらエレベーターに乗り、迷いまくりながら口腔外科の外来に向かいました。  いつも結構混んでる口腔外科の待合スペースですが、この日はガラガラ。 受付の前を通り過ぎて、申し訳程度に座ります。 ぽつんと座っていたら、すぐに主治医が診察室のドアを開けて招き入れてくれました。  診察室に入ってスライドドアを閉めると、立ったままドアの近くで主治医が話し始めます。 「手術そのものは、すごくスムーズでした。2時間半位でおわったんですが」 ですが、ですよね。手術開始から4時間経ってるし。顎と別に1時間半、なにかに費やしてます。  何が起きたのか、私はハラハラです。どっか異常があって別の手術をしたんか、なにかの不具合があって寝たきりになっちゃったんか......。一瞬のうちに色んなことが、脳裏を過ります。 「終わったんですがね、」 先生、何故か笑ってらっしゃる。 「尿道カテーテルが全く入んなくて、1時間頑張ったんですが、手に負えなかったから泌尿器科の先生に来てもらいました」 なんて返せばいいか全く検討がつかず、情けない「えぇ?」っという声と共に、首を傾げる他ありません。 「こんなことはほんとに稀で、今まで経験なかったくらいです。現状、顎より尿道の方が重症なので、入院期間伸びます」 一大事じゃなかったのは分かりましたが、なんかもう......どうしたらいいか分からず。 「......なんだかほんと、申し訳ないです」 謝るしかないじゃないっすか。 「いえいえそんな。あまりにカテーテル入らなかったから、狭窄症かと思ったんですが、狭窄症ではなかったみたいでよかったです。病室にご本人到着してるんで、顔を見てあげて下さい。元気になったら連絡来るようになりますよ」 私は主治医にお礼を言って頭を下げ、病棟に迷いながら向かいました。  尿道カテーテルは、数年前に私も経験済み。 私は失敗されてたみたいで、24時間3日間ずっと今すぐおしっこ漏れそうな感じでした。 でっかい病院は、そんなミスは無いはず。  病棟に上がって、受付で名前を言ったら、病室に案内してもらえました。 「できるだけ手短にお願いします」 コロナの影響で、面会は短めです。  部屋に入ると、足に白い長靴下を履いた連れが、チューブと心電図に繋がれて寝ていました。 足になにか機会が繋がってて、規則正しくプシューっと空気の抜けるような音がします。 「終わったよ」 声をかけたら、連れはまだ朦朧としながら頷きました。 汗びっしょりだったんで、タオルを勧めたら頑なに拒否。なぜなんだか、頑なに。 「携帯、枕んとこに置いとくよ」 口から出たチューブとバッグの隣に、スマホを置きました。  なんでだろう、数年前私自身死にかけたときは、きっと連れより酷かったろうに、なんだか心配で仕方なかったんです。 心電図なんかに繋がれちゃって、このままどうにかなったらどうしよう。 点滴の成分が合わず、吐いちゃったり痙攣しちゃって、夜中に電話が鳴ったらすぐ行かないと。 「すぐ良くなるから。とりあえず3日くらい、乗り切ろうね」 泣く予定なんかなかったのに、自然と涙が落ちました。  いろんなことを考えながら病院を出て、1時間かけて帰る車内で少し泣いて、家に帰ってトイレで泣きました。  帰り着いて適当に食事をしてぼんやりしていると、なんと連れから電話! 病院からかかったら急変ですが、連れ本人からかかってきたなら多分急変ではないはず。 急いで電話に出ました。 「もしもし、大丈夫?」 いや多分大丈夫じゃないやろうけどと思いつつ、恐る恐る聞いてみます。 「うん大丈夫......。今日ありがと」 ありがとう、まで言えずめちゃくちゃえずきまくる連れ。どうやら鼻から胃に通したチューブとの相性が最悪なご様子。 「え、大丈夫なん......?」 「待って1回かけ直す」 ゲロゲロ言いながら電話が切れ、数分してまたかかってきました。 「大丈夫?」 「鼻のチューブがちょっとズレると、ゲーってなる」 「じっとしとかんと」 「どの角度でも変わらんかも」 変わらんこともなかろうけど、体調不良は絶対に受け付けない連れにとっては、体内チューブとの共存は死活問題なのです。 「なんかあったら、すぐナースコールやな」 私は隣に座ってる訳じゃないので、困った時にはナースコールしてもらわなきゃ困ります。 「うん......」 さすがに堪えてしまってる連れ。声に張りはありません。 「尿道カテーテルのこと聞いた?」 「聞いたような聞いてないような......」 「とりあえず仕事してるから、夜中もなんかあったら電話して」 「うん......ありがとう...」 「寝れそうなら寝てな?」 「うん......」 電話終了。多分連れは眠れないし、私も不安すぎて眠れそうな気配ゼロ。 眠くなりやすい風呂上がりも目が冴えてたし、24時を回っても眠れず、心配過ぎてしくしくした後締切が迫る原稿の打ち込みに励んだ夜でした。
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