真夏の夜に降りよる雪

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 今日の、昨日かもしれんばってん、午前やった。空襲警報と警戒警報が解除されてから暫くして、十一時頃やったと記憶しとります。蝉の声がせからしか真夏の太陽の下で、畑仕事に取りかかる前に祈りば唱えて、午後にマリア様の祝い日ば控えての告白に行かんばと思いながら、斜め前に見える御堂に目ばやりました。ようけ信者が集まっとった。    敵機の爆音が聞こえて来て見上げたら、青か空と、白か雲が、特に細長う尾ば引いとった飛行機雲とやらが綺麗でした。二つ三つの落下傘が銀色に、一つの爆弾が金色に輝いとった。    防空訓練の通りに目と耳ば両手で押さえて俯せんばて思うて、視線ば下げました。淡か虹が一瞬だけ、色彩に溢れとった天と地に差したと思うたら、夏の浦上の光景は、目が眩むどころか潰るるごたる閃光に、すべての色ば消されたとです。    百雷万雷が一編に落ちたごと地響きも起きとって、炎が天と地に満ちて、うちも焼かれました。赤黒か悪魔のごたる大風も浴びて、巨大な鞭で全身ば激しう打たれたごたった。とんでものう熱うて痛(いと)うて、吹き飛ばされて叩きつけられて、後は分からんくなりました。    喉が酷う渇いて、息苦しうて、煙とうて、顔だけ寒かった。油のごたる俄雨が降って来て目ば開けたら、裏の薯畑との境の石垣に首と背中ば凭れて尻餅ばついとりました。はしたのう、足ば投げ出して。上衣とモンペば焼かれて裸で、履物ば飛ばされて裸足で。
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