真夏の夜に降りよる雪

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 うちは……また、死んどらんごたる。こいで、何遍目やろうか。また、気がついてしもうた。相変わらず、水ば飲みとうて、飲みとうてしょうがなか。息ばするだけで精一杯にもなってしもうて、えらい苦しうてきつか。    顔や瞼も、腫れが酷うなっとるごたる。目が見えにくか。腰が砕けて抜けて、殆ど体は動かんし、よう声も出んし、周りに生きとる人間はおらんごたるし、どげんもしょんなか。    粗方、大火事は収まっとる。照明弾ば落としに敵機も来とらん。大風も止んどる。いつの間にか晴れとる空には、明かるか星しか出とらん。新月の夜やけんね。    モンペの衣嚢に入れとったロザリオも、吹き飛ばされてしもうとるやろう。焼けて辺りに残っとっても、もう手繰りきらんばってん。    ああ……優しか光が差して来よると思うたら、御堂に火が点いとるやなかね。あの大空襲で崩れはしても、大火事には巻き込まれとらんやったんに。あげん美しうて立派やったロマネスクの大聖堂が……浦上の大天主堂が、遂に燃えよる。祈りば唱えんばならん。    今日は、八月九日。もう日付が変わって、十日になっとるかもしれん。十五日の聖母被昇天の大祝日まで、もう直なんに……。何が何だか、よう訳が分からん。うちも、町も、すっかり丸焼けになってしもうた。
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