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「落ち着いた?」
カナは私が泣いている間、ずっと優しく背中をさすってくれていた。
淹れてくれたホットミルクティーも冷めてしまった頃、やっと私はヤマト君とのやり取りを話した。
「……頑張ったね」
ポンポンと頭を撫でてくれる。
カナが男だったら惚れてると思う。それくらい、その優しさは心に沁みた。
「言いにくいけど……さっきから携帯光ってるの、ヤマト君じゃないかな?」
見ると、私の鞄から投げ出されて床に転がっている携帯はピンク色に点滅していた。
好きな人の色。
――ヤマト君からの色。
「ホントだ……」
着信5件、メール3件。全部ヤマト君からだった。
「……なんだって?」
覗き込むカナは、そして顔を歪ませた。
「……返事するの?」
「…………」
メールの内容はこうだった。
“さっきはごめん。ミズキちゃんと会えなくなるのはイヤだ。電話出て”
“怒ってる? 泣いてる? 会って話そう?”
“俺、やっぱりミズキちゃんのこと好きだよ。もっと努力するから、声聞かせて”
「――今更どうしてこんなこと言うの……?」
「絶対離れていくはずがないって思ってたミズキに振られるのがイヤなだけだよ! また繋ぎ止めるだけで、ホンキで愛してくれるわけじゃないよ?」
「わかってる……」
わかってても、心が揺れるんだ。
私からメールしてないのに、私が返事を返していないのに、こんなに電話がきてメールがきて――そんなの初めてで。
繋ぎ止めるための嘘だってわかってても、好きって言われて嬉しい。
――――ツラい思いをするのなんて、わかりきってるのに。
カナは私の気持ちを見透かしたように、苦笑いをして言った。
「まぁ、ミズキくらい尽くしてくれるオンナを大事に出来ないバカならこっちから捨てればいいもんね」
「カナ……でも」
「ホラ、電話しなよ」
「でも……怖いんだ」
「ヤマト君がまたミズキを泣かせそうになったら電話ぶんどってやるから」
背中を押され、発信ボタンに触れた指に力を込める。
呼び出し音もろくに鳴らない内にヤマト君の声が届く。
『ミズキちゃん!』
「……どうしたの?」
『……色々、言いたいことあるけど……っ』
「ん、聞くよ」
『確かに、俺、遊んでるけど……でも、何かあったら最初に思い浮かぶのはミズキちゃんだよ』
「――ん」
『俺、遊んできたから、オンナ連れて歩いてたらそのコのことも悪く言われちゃうし……迷惑掛けたくなかったっていうか……巻き込みたくなくて』
「そうなんだ……」
『すぐにはやっぱり難しいと思う……普通にデートしたりとか。でも、ミズキちゃんのこと好きだから!』
「……信じたいけど……」
『……俺が悪かったのはわかってるから。けど、今までみたいに会いたいよ』
今までみたいに、って。
それはどういう意味?
――思っても、口には出せないまま。
『俺だけのミズキちゃんでいてよ。もし他の男にミズキちゃんが取られたらって思ったら……ツラい』
「私は……私はずっと、ヤマト君だけを想ってたのに! 傷付いて……関係に疑問も持って……だけど、だけどやっぱり……」
くやしい。
ヤマト君とこのまま幸せになれる未来なんて想像したくても出来ないのに。
「やっぱり……好き……っ」
心配そうなカナの笑顔。
それでも止めないでくれたのは、きっと私の複雑な気持ちをわかってくれていたから。
ほんの少しの期待を胸に。
「これからも……ヤマト君のこと好きでいさせて……」
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