友達以上知り合い未満

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 どうして、大人になると色々なことが見えるようになるんだろう?  スポーツ出来るからカッコイイとか、テストでいつも成績いいから素敵とか。学生の頃みたいに、もっとシンプルに恋愛出来たらいいのに。  ……いつから私は、相手に合わせる恋愛しか出来なくなってたんだろう?  ヤマト君と付き合い始めて初めてのイベントが近付いている。街には緑や赤の飾りが増え、イルミネーションも力が入ったものに変わった。 「どうしようかなぁ」  ショーウィンドウが白く曇る程近付いて中を覗く。  カナの複雑そうな笑顔が後ろに映る。 「ヤマト君へのプレゼント?」 「うん。イマイチ趣味もわかんないし……」 「……もう2人結構経つよね?」 「……半年くらい?」  だけどその半年、私達は本当に恋人同士だったのだろうか?  未だにデートらしいデートをしたことはない。 「そもそも、クリスマスはちゃんと会えるの? 約束してるの?」 「えっと……」 「――ミズキ……」 「で、でも! 最近は週末ウチに来ることが多いんだよね! だから、きっと……多分……」 「ねぇ、ミズキ――――」 「カナ!」 「……」 「大丈夫だよ……わかってるから」  わかってるんだ。  ヤマト君が、私が寝た後に誰かとメールしていること。  私じゃない誰かとは、きちんと外で遊んでいること。  香水が変わったこと。  ……私のことを、好きじゃないこと。  それでも。  クリスマスは念のためプレゼントを用意しておこうと思う。  料理もいつも以上に張り切って、ケーキは甘いのが苦手なヤマト君に合わせて甘さ控え目なものを作ろう。  そんな買い物をする私は、何も知らない人から見たら普通に幸せそうでしょう?  自分が一番わかってるんだから。  せめて他人が見て一般的な幸せそうな女の子でいたいよ。 「ね、来週の土曜日会える?」  そう訊くのは、電気を消して布団を被った後。なるべく困った顔のヤマト君を見たくないから。 「来週? って、何日だっけ?」 「えーっと……24日かなぁ?」 「う、うーん……ちょっとまだわかんないなぁ。仕事忙しかったら来れないかも」  土曜日は休みだよね? ――なんてことは言わないけれど。 「そっか、もう年末だしね」 「ん、でも来れたら来るから」 「ありがとう、無理しなくていいからね」  言いながら、きっとヤマト君は来ないんだろうなって思った。  もう、こうやってイイコのフリするのも最後にしよう、とも。  クリスマスなんて、別に、祝日でもなんでもないんだから。  そう思い込もうとしても、どうしても街は、世間はそれを許してくれない。  寒さは厳しくなっているはずなのに、恋人達は寄り添って暖かそう。  私は……  暖かい部屋、腕によりをかけたご馳走、悩んだ末に勇気を出して決めたプレゼント。  ――鳴らない携帯。  一応メールは送っていた。 “ゴハン作ってあるから、来てくれたら嬉しいな”  そんなどこまでも都合のいい内容。  結局返事の無いまま24日が終わってしまった。 「バイバイ、ヤマト君」  独りごちて、携帯を手に取った私はヤマト君に最後のメールを送った。  とてもとても簡単な内容。  ――――“今までありがとう。さよなら”  もう冷めてしまった料理を一人で食べる気にもなれず、そのままメイクを落として布団に潜り込んだ。  どれくらい時間が経っていたのだろう?  携帯の着信音と、来客を告げるチャイムが同時に私を起こした。時計を見ると午前3時過ぎ。  いくら次の日が休みだからって流石に非常識過ぎる時間帯だ。  そんなことをする人物はただ1人。  悩んだ末、鳴り続ける着信音とチャイムに負けて玄関に出向いた。  ドアを開けると、顔色を変えたヤマト君が勢いよく部屋に入ってきた。 「ミズキちゃん! あのメールどういうこと!?」  あんなに好きだと思っていたヤマト君。  だけど色んなニオイが混ざった彼に触れられても、前みたいにときめいたり出来ない。  これ以上自分が傷付くだけの恋なんて続けられない。  私は、自分でも驚くほど冷めた口調で答えた。 「そのままの意味だけど」 「俺、何かミズキちゃんを怒らせるようなことした!?」 「――本気で言ってるの? むしろ今まで怒ってなかったほうが不思議じゃない?」 「……ミズキ、ちゃん……?」  テーブルには、手のつけていない料理とケーキ。その横にはプレゼント。  ヤマト君はそれらを見つめ、ごめんと呟いた。 「別に謝ることないよ。私が勝手に用意したんだもん。普通は恋人同士、しかもハッキリじゃないけれど約束めいたこともしてたクリスマスイヴ、一緒に過ごすと思うじゃない――でも、ヤマト君はそう考えてなかった。ただそれだけ」 「……」 「仕事かも? お酒飲んでたんでしょ? 誰とかなんて今更聞かないけど。クリスマスを特別視してたのは私だけ? ……あぁ、2人が付き合ってるものだと思ってたのも私だけだもんね」 「ミズキちゃん……」  私を抱き寄せようと手を伸ばす彼の手を振り払う。 「もうこれ以上私を苦しめないで欲しいの。その気が無いなら半端に優しくしないで」 「俺、ミズキちゃんのこと好きだよ?」 「――もういいよ、そういうの。やめよう? 私にも普通の恋愛させてよ」 「み――――」 「元々ね、今日はお別れ言おうと思ってたんだ。これは最後に渡そうと思ってたの」  テーブルの上に用意していたプレゼントを差し出す。 「結局ヤマト君にとって私は都合のいいセフレでしかなかったんだよね? 前に引き止めてくれたとき、嬉しかったけど……それも、恋愛対象の『好き』ではなかったんだよね?」 「ちがっ――」 「違わない」  私は、自分の携帯のアドレス帳のヤマト君のページを開いて見せた。 「バカみたい? ヤマト君のメモリだけ別フォルダなんて作っちゃって……今、全部消すから。ヤマト君のメモリ、メールのやり取り、全部」 「ちょっ……ミズキちゃん、待って」 「もうこれ以上待てないよ」  そして、躊躇いも無く消去ボタンを押し、一瞬で彼のデータが消えた。 「ヤマト君も私のデータ消しておいてね」 「やだよ、これからも仲良く――」 「出来ると思ってんの?」 「っ……」 「もう二度と私に関わらないで」  無理矢理ヤマト君の背中を押して、部屋から追い出す。  ドアを閉める直前、自分の頬が濡れていることに気付いた。 「泣いてるの? ミズキちゃん……」 「……ヤマト君と出会わなければ……泣かなかった」 「……」 「今までありがとう。名ばかりの関係だったけれど……ヤマト君のこと――」 「ミズ…――」 「……好き……………………――――……だった」  ガチャリとわざと大きく音を立てて鍵を閉め、私はしゃがみこんで泣いた。過去形にするには苦しすぎるくらい、ホントは今でもヤマト君が好き。  それでも歩き出すためには必要な別れ。  一瞬の激しい痛みを選ぶか、長い間じんわりと痛いのが続くか。  私は前者を選んだだけ。  どっちにしろこの恋に痛みはつきものだ。  彼に渡したプレゼントの中身は、私の彼への想いの全て。きちんと渡せたから、もう何も残していない。  次に恋をするなら、イベントを大事にしてくれる人がいいかな。  ……ううん、そこまで望まない。  普通にデートが出来る、そんな当たり前の条件だけでいいや。  窓の外に目をやると、クリスマスだからってロマンティックな景色はなく、ただ静かに雨が降っているだけだった。
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