99人が本棚に入れています
本棚に追加
/26ページ
「あ、そういえば。あおいってどうしてあおいだったんですか?」
「んん、哲学ですか?」
「いえ、さくらおばあちゃんのお家で、私はひまわり畑で見つけられたからひまわりだったじゃないですか。じゃああおいはどんな由来があるのかなあって」
「ああ、呼び名のことですか。あおいって呼び名はさくらばあちゃんがつけてくれたんですよ。多分、彼女が気分でつけたと思うので、とくにこれといった由来はないんじゃないですかね」
「えっ。そんな感じなんですか?」
「そうですねえ。ぼくもちゃんと聞いたことがなかったので」
「へええ、さくらおばあちゃん、面白いですよね」
「ちなみに彼女のさくらは本名ですよ」
「ええっ、そこは本名名乗っていくんですね。桜が好きだからとかそういうのかと思いました」
「愉快な方ですよね。そうだ。今度二人で訪ねてみましょうか」
「わ! 本当ですか? 行きたいです!」
「ぼくも、教師になってからは忙しくてもう数年訪ねていないので、顔を見せたいです」
「でも、私のこと覚えててくれるでしょうか。10年も前に一か月くらいお世話になってただけですし」
「ばあちゃんは異様に記憶力がいいですからねえ。きっと大丈夫ですよ」
「送っていただいて、ありがとうございました」
名残惜しくてしかたがないが、とうとう懐かしのわが家へ着いてしまった。
「はい。おやすみなさい。ぼくのひまわり」
「お、おやすみなさい」
「……」
「……」
挨拶は交わしたものの、互いに離れがたくて、見つめあってしまう。
「あ。その、おばあちゃんち、いつ行きますか」
「ああ。具体的な日程はまだでしたね。では」
す、と先生がスマホを差し出した。微笑む先生と目が合う。
「連絡先、交換してもいいですか?」
「はい!」
私と先生の夏は、まだ始まったばかりです。
〈Fin.〉
最初のコメントを投稿しよう!