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元の時代に帰れますように。今一番の願いはそれだけど、あおいにそんなこと言うわけにもいかないし。先生との恋が成就しますように、ともお願いしたかったけど、それってつまりあおいと……ってことになるわけだし。それも嬉しいけど、でも生きてる時代が違うわけだから……。言い淀む私を見て、図星をつかれたから黙ったと思ったのか、あおいは勝ち誇ったようにふふん、と鼻をならした。
「じゃあいいだろ別に。大体、そんな努力でなんとでもなるもん願わなくていいんだよ。もっと重要な願い事してやったから、感謝しろよな」
「もう、なんなの」
ふてくされたように言いながら、でも実は嬉しい気持ちもかなり大きくて、自分でも少しおかしい。こんなにツンツンしたあおいが、私のためにミサンガを作ってくれて、私のために何かお願いをしてくれたのだ。
先生の子供時代がこんなに生意気な子どもだと知らなくて最初はショックも受けたものだが、今は違う。恋している、好きな人からプレゼントをもらったのだ。嬉しいに決まっている。胸のあたりがじんわりと温かくなる。
そして同時に、心に抱えていたもやもやした気持ちも、嘘みたいにすうっと消えてしまって、あとには世界の真理みたいなゆるぎない事実だけが残った。
あおいも先生も、どっちも好き。どっちも大切。どっちにも恋してる。
叶わない恋かもしれないけど。
ずっと一緒にはいられないかもしれないけど。
あおいと、この一か月の夏休みを過ごしたのは変わりようのない事実だし、先生のことが好きで三年間片思いしていた時間も、確かに存在している。「あおい」のいない元の時代に戻るかもしれないし、戻れないまま一生をこの時代で過ごして、もう「先生」には会えないかもしれない。どちらにしても、受け入れるしかないんだ。今を精一杯に、生きるしかない。
私が沈黙したままで、人生にもかかわる重大な決心をしているとは露ほども思わず、となりに立つあおいが声をかけた。
「なあ、ひまわり。ここ、どう思う」
「……ここ?」
一瞬、質問の意味が分からなくて聞き返す。
「このひまわり畑だよ。そもそも、お前なんでこんなとこにいたわけ」
「う~ん、それがわかればよかったんだけどね」
「まあ、いいけどさ。お前にもなんかあんだろ事情とか」
「へ、なんか今日のあおい優しい。どうしたの急に事情があるとか大人っぽいこと言って」
「俺はいつも優しいだろ。ばあちゃんちに居候する奴ら、挙動不審で変なやつが多いんだ。いつの間にか帰ってるしな」
「へえ? ここ、そんなにいろんな人が泊まりに来るの? 案外よく見てるね、偉い偉い」
「そうだよ。てか茶化すな。話、戻すけど。ここのひまわり畑はさ、俺が育てたんだ」
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