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湿った土の匂いが鼻腔をくすぐる。寝室にいるにしては妙に明るい光が降り注いでおり、布団も硬くて寝心地が悪い。
「う、ん……?」
ぼんやりと目を開けると、私はなぜか土の上に横たわっていた。
「んん?」
身を起こしてあたりを見回すと一面が真っ黄色で、一瞬、炎かと思ったがよく見ればそれは全てひまわりの花。
私は今、見知らぬひまわり畑にいるのだ。
「え……?」
状況がうまくつかめない。眠る前の記憶となにか齟齬があるのか。私は確か、終業式後に大好きな芹川先生に告白しようとして、勇気が出ずにすごすごと帰路についたのではなかったか。なぜこんなところで寝ていたのだろう。
そのとき、がさりと音がして周囲のひまわりの茎が揺れた。びくりとして身構えると、ひょこっと顔を出したのは中学生くらいの少年だった。
「こ、こんにちは」
愛想笑いを浮かべて挨拶をしてみたものの少年はそれには返さず、くわっと私のことを睨みつけ威嚇するように低く言った。
「なんだお前! 侵入者か!」
しかし、私はその少年の顔をまじまじと見て的外れなことをつぶやいた。
「……せんせい?」
「はあ? お前何言ってんの。俺まだ14だけど。先生ってなんだよ気持ち悪いな。変質者かよ。おらこいっ!」
「わ、ちょっと手離してよ! 痛いってば」
私よりも年下のくせに、変質者を逃がすまいとしているのかぎゅうっと手を握られていて、力が強く抵抗してもびくともしない。成長期真っ最中だからなのか、少年の手は私のそれよりも大きくがっしりしている。男性っぽさを感じてドキッとしてしまう。
……え? 私、今こんな子にちょっとときめいた? 冷静になれ。いくら芹川先生に似ているからって、ただの他人の空似なんだし。てかこんな口悪くて態度最悪な子が先生なわけないし、そもそもまず先生は子どもじゃないしもっと格好良いし、眼鏡が似合うクール系の25歳だもん。
そんな私の混乱など微塵も頓着せず、少年に無遠慮にずるずると引っ張られどこかへ連行される。仕方がないので大人しく彼についてしばらく歩くと、広大な自然に囲まれた景色の中にぽつんと建つ、大きな日本家屋が見えてきた。彼の家だろうか。
「ばあちゃーん!! こいつ、俺のひまわり畑にいたんだ。変質者だよ!」
先生によく似た少年に連れられ、そのまま私は来たこともない日本家屋に強引にお邪魔させられた。想像通りの和風な内装で畳があって、縁側もあって、夏なのに涼しい風が吹き抜けて過ごしやすそうなところだ。窓辺ではちりーんと涼し気な音をさせながら風鈴が揺れている。
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