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「え、そうなの? これ全部?」
「そうだよ、さっきも言ったけど、俺ってわかりにくいよな。ほんとに。好きなんだ、植物全般。とくに花。……のなかでも、ひまわりはとくに」
「へえ、あおいの意外なとこ、また知っちゃった」
「……ひまわりはさ、少しでも太陽の光浴びるために、太陽がある方に花とか葉っぱとかを向けるんだ。だからこんなにたくさん植えてても、ほとんどみんなおんなじ方向向いてるだろ」
「うわあ、本当だ。今まで気づきもしなかったけど、確かにみんな太陽の方向いてる! うわあ、面白いね」
「だろ、ひまわりってさ、植えられたところから動くこともできないのに、すごく強かに生きてて、凛と咲いてて、美しいんだ」
きらきらとした目でひまわりを称賛したかと思うと、じろりと意地悪そうな目付きで私の方を盗み見る。
「ほんと、お前とは大違いでさ。あーあ、だから嫌だったんだ。お前のことひまわりなんて呼ぶの」
「もう、可愛くない!」
「……でも、俺好きだよ、ひまわりのこと」
「それはもう散々聞いたから知ってるよ。好きなんでしょ、ひまわり、が……」
言いながら、ふとあおいの言葉に違和感を覚える。
と同時に、左の肩にあおいの熱い手が乗せられた。がし、と強めに掴まれていて、少し痛いほどだ。
「あお、い?」
無言のまま、あおいがさくり、と一歩距離を詰める。あおいとの距離が、今までにないほど近い。じいっと私を見つめるあおいの瞳は、少しもふざけていなくて、見たことないほどに真剣だった。
顔が、近い。あおい、まつげ長いな。
それに、やっぱり先生の面影がある。
これから成長して、立派な大人になっていくのだろう。
ふるり、とまつげが震え、ゆっくりと瞼が閉じられると、まだあどけない幼子のようだ。
肩に置かれたあおいの手は熱くて、少し汗ばんでいる。
そして。唇と唇が、ふれあった。
私は驚きで、目を見開いた。ふれたのはほんの一瞬で、すぐに離れていく。
「ごめん」
ぼそり、とあおいがつぶやいたのを聞いて、心の中で何かが堰を切ったように溢れた。
知らぬ間に、涙がぽろぽろとこぼれる。
ぎょっとしたようなあおいを突き飛ばし、私はひまわり畑を必死に走り抜けた。
あのまま、あおいとふたりでいたくなくて。
先生への恋心とか、元の時代に戻ることとか、受験とか、この一か月のこととか、あおいへの気持ちとか、何もかもがないまぜになって、もうわけがわからなくて。
泣きながらがむしゃらに走った。
ここがどこなのかもわからない。
来たことのない山の中で、足場の悪い道を走ったので、とうとう石か何かにつまずいてしまった。
わ、と声を漏らし、バランスを取りなおそうとするも間に合わず、私は派手に転んでしまった。
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