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私は畳に横になったままで、また思考を巡らせる。目を閉じれば、開け放した窓から入るぬるい風が風鈴を鳴らす音と、ひぐらしのカナカナカナという物悲しい鳴き声だけが妙に大きく聞こえる。
ここに来てしまった日のことを考える。
終業式の夕方、遅めの帰路に着こうと校門を出たところだった。なにかに躓いてしまって、転んで、そしたら黄色の炎の中にいるような広いひまわり畑にいたのだ。
あの日、私は先生への告白リベンジを決行することになっていた。
明日から夏休みだというのに、たくさんの課題を出されて萎えた友人たちと教室でだべっていた放課後のこと。けれど遅い時間になればなるほどみんな帰っていき、教室に残っているのは私と、ギャルっぽいあーちんと、童顔で可愛らしいかおるちゃんだけ。ふたりとも彼氏持ちで幸せいっぱいで、とくに私の恋を応援してくれてる仲の良い友人だ。彼女たちは私のことを、苗字が白瀬だからしろちゃんと呼んでいたが、最近は短くしろちゃ、と呼ぶことが多かった。放課後の気だるい教室で、告白リベンジをふたりに提案されたのだった。
「ねね、しろちゃ。今日もっかい先生に告って帰れば?」
「はあ?? ちょ、何言いだすのあーちん。知ってるでしょこの間振られたの」
「そーだけどさ。夏休みになったら一ヶ月は会えないわけじゃん」
「さみしいでしょそれ! いいじゃん、ダメもとでさ!」
「君たちはまた他人事だと思って~~」
「あたし一ヶ月も彼氏に会えないのむりだわあ」
「あーちんは彼氏くん幼馴染だから近所に住んでるんでしょ、すぐ会えるじゃん」
「それな~。ウチはそんなに頻繁じゃないけど、図書館で勉強教えてもらったりぃ、ドライブ連れてってもらったりする約束しちゃったんだ~!」
「うう~、ふたりともいいなあ幸せそうで」
「だからさ、しろちゃも先生に告白しておいでよ。もしかしたら先生もしろちゃの熱意に打たれて付き合ってくれるかもしれないし!」
「ん~~」
「てかいっそ玉砕した方が勉強にも力入るんじゃね? しろちゃ最近成績落ちたんでしょ?」
「あーちんの意地悪!」
「あはは、ごめんごめん」
そうしてうだうだと過ごし、話の流れで私は告白して帰ることになるのだが、なかなか告白しに行く勇気が出ず、先に帰るふたりに「がんばれよ!」「遅くなる前に帰るんだよー」と励まされ(?)つつも、結局最終下校時刻まで教室から動くことができず、告白はあきらめてとぼとぼと帰宅することになる。
あの日、先生に二回目の告白はできなかった。
それを後悔しているのか、それともすっぱり先生のことをあきらめるべきなのか、私にはわからない。
「……」
ふと、あの生意気そうな少年の顔が浮かぶ。何も考えたくなくて。白い電灯がまぶしくて、私はそっと右腕で目を覆った。
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