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「合コンだぁ?」
「うん♪ 職場の後輩に誘ってもらったの」
仕事帰り、いつものお店。隣に座っているのも変わらず礼司だけど。
「……アラサーが学生気分抜けきらない年下に囲まれて、合コン?」
「失礼な。私は会社ではまだまだ若手だし、実際若いって言われてるし――」
「話合うのかよ?」
「……カラオケ行っても新譜もわかるよ……」
大袈裟に溜息をつく礼司。カウンター越しにケイちゃんも笑っている。
「な、何よ……これで彼氏出来たら礼司だって合コンいいなって思うんだから」
「そりゃ、彼女出来れば嬉しいけどさ。合コンってマトモな出逢いあんの?」
「最近は合コンやナンパで知り合って結婚するカップルだって珍しくないよ」
そうかもしれないけど……と、礼司が渋い顔をする。
「お前は年齢的にも付き合ったら結婚したいんだろ? もしその合コンで彼氏出来ても、ソイツは結婚とか考えてないよ?」
「なんで言い切れるのよ?」
「……オトコだから」
「何それ? ね、ケイちゃんはいいと思うでしょ?」
「うーん、そうねェ……楽しい飲み会になるとは思うわよ?」
ケイちゃんも微妙な反応だ。
「何よ、みんなして」
「まぁ、お前がいいなら精々楽しんできな」
「言われなくても満喫してくるし」
礼司の言う通り、合コンメンバーは男女とも私以外は今年大学卒業して社会に出たばかりのメンバー。相手はウチの会社の関連企業の男性陣で、私も何度かお茶出しの時顔を見たことがある人も来るようだ。確かにトシは離れてるけれど、きっと大丈夫。だって私、まだ気持ちもカッコも若いし。
「あ、先輩こっちですぅー」
当日、居酒屋の入り口前に集まる若者集団に合流した私。気合は充分だった。張り切り過ぎを悟られないように、あくまでも自然に。
服だってファッション誌の恋愛特集を参考に、攻め過ぎない攻め服を選んだつもり。
「ごめんね、待たせちゃった?」
「いえ、まだ集合時間ちょっと前なのでー」
「先輩今日もナチュラルに可愛いですねぇー」
「あはは、ありがと。こういう飲み会なんて全然ないから何着ればいいかわからなくて。変じゃない?」
「えー? 全っ然変じゃないですよぅー。むしろモテ服ですよ~」
予定通り褒められる。とりあえず出だしは好調。
「じゃ、とりあえず中入りましょうよー。多分オトコ達もう来てますんでー」
「あ、そうなの? やっぱ待たせちゃってたね、ごめんね」
「オンナは待たせてナンボじゃないですかぁ? ……あ、いたいた」
店内を見回して相手方を見つけた途端、その子の声色が急に変わった。
「ごめんねぇ~、もうみんな揃ってた?? どうしよ、待たせちゃったね」
「気にしないで! 俺らが先に着いちゃっただけだし。ホラ、時間ちょうどだし!」
男性陣の幹事らしき青年が笑顔で迎え入れてくれる。
こちらが席に着くとメニューを渡され、注文をまとめてくれ、頼んだ飲み物が運ばれてくると手際よく全員に回し乾杯の音頭をとる。
……慣れてるなぁ。
「それじゃ、顔見知りも多いかもしれませんが! 一応自己紹介を」
幹事の一言で一人ずつ軽い自己紹介を始めた。さり気なく趣味や特技をアピールしたり、可愛い女を演出したり。
「坂本雅です。みんなから見たらオバサンだと思うけど、気軽に話しかけてくれると嬉しいな」
歓談タイム。そしてやっぱり若者らしく食べるだけ食べて飲んだらカラオケへ流れた。礼司達には新譜もわかると豪語したけれど、聞いたことある程度で歌えるわけではない。聞き手に回って飲み物の注文に勤しんでいた。
「ね、雅ちゃんって呼んでもいい?」
トイレから戻ってきて私の隣に来た青年がそう言った。遊び慣れてるなぁとは思うけれど、そこまでチャラついた印象もない人。
「うん、もうちゃん付けの年齢でもないけどね」
「でもまだ28でしょ? 若いじゃん」
「あはは、ありがと」
「ね、オレのことはショーちゃんって呼んでよ」
名前は確か……翔太。だからショーちゃんか。
「いいよ、ショーちゃん」
「うは! 年上のオネーサンにショーちゃんって呼んでもらうの憧れてたんだ! 夢、叶っちゃった」
無邪気な笑顔を向けてくる彼。ちょっとカワイイかも。そして彼は、私の耳元で囁いた。
「ね……二人で抜け出さない?」
予想はしていた。カラオケ店を出た時から覚悟も決めていた。
だけどいざ彼に手を引かれてホテル街を歩くと、なんだか脚がもたついた。
「ね、オレ雅ちゃんのコト気に入っちゃったんだ。ううん、ホントは前から気になってたんだよね」
「前から?」
「そ。たまに打ち合わせとかでそっちの会社行ったら、雅ちゃん笑顔でお茶出してくれてるじゃん。可愛いなって思ってたの」
「……そ、そ…なんだ」
「雅ちゃんは、オレみたいなガキと付き合うのヤダ?」
ホテルの入り口で繰り広げる会話。
沢山歩いて回ってきたアルコール。
久し振りの恋愛の感覚。
“~♪”
タイミングが良いのか悪いのか、メール受信音が鳴り響く。
「……出ていいよ? 残してきたアイツらかも」
「ううん、メールの音だから」
画面を見ると礼司の名前が表示されていた。
礼司よりは先に幸せ掴みたい。
あんなこと言ってた礼司を見返してやりたい。
……そんな気持ちも、少し背中を押して。
私はショーちゃんの告白の返事の代わりに繋がれていたその手を強く握り返して、建物に一歩踏み出した。
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