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トロピカルスタイル
「今年の夏こそは燃えるような恋をする!! 素敵な恋人作る!!」
「……それ毎年言ってない?」
「こ、今年が本番なのッ!」
そんな風に言いつつもいつもの店でいつものコイツと飲んでるんだもん。出逢いを期待するのも無理な話だ。
「ねぇケイちゃーん、誰かいい人いない?」
「そうね。ステキな人は沢山いるわよ~? みゃーちゃんの好みは?」
バー“Blue rose”。私の最近のお気に入りのお店だ。
この目の前で大和撫子のように優雅に口元に手を添えて微笑んでいるのがケイちゃん――この店のマスター。私より女性らしい仕草だけれど男の人だ。
ちなみに「みゃーちゃん」とは私のこと。
坂本雅、だからみゃーちゃん。もうそんな可愛らしいあだ名の似合うトシでもないけれど。
「カッコよくてー、背が高くてー、仕事が出来てー、私のワガママ全部聞いてくれてー……」
「おいおい、そんなこと言ってっからオトコ出来ないんだっつーの」
「はぁーっ!? じゃあ礼司の好み言ってみなさいよー」
「そりゃお前、俺は謙虚だぞ? おっとり系美人で家事が得意で優しい子ならOKだ」
「いやねェ、二人とも欲張りさんよ」
ケイちゃんに笑われる。
「大体、二人仲良しさんでお互いフリーなんだもの。付き合ってみたら?」
「「ありえない!!」」
思わずハモる私達。
そう、礼司――古池礼司とは幼馴染の腐れ縁。幼稚園から大学までずっと一緒で、それなりに気も合うからいつもつるんできた。だけどそれだけ。気が合って一緒にいるのはラクだけれど、だからこそ友達としてしか見れない。
「ホラ、そんなに息ピッタリなのに。お似合いじゃない? 礼司クンは背も高くてカッコイイし、みゃーちゃんもおっとり美人に見えるわよ? ――黙ってたら」
「黙ってたら!?」
「ははは! 言われてらぁ!」
「ひどい……」
「でも、どうしてそんなに恋人が欲しいの? 慌てなくてもみゃーちゃんなら……」
だって夏になる。
夏祭り、花火大会、私の誕生日――恋人と過ごしたいイベントが盛り沢山。アウトドアを楽しむにも、夏がやっぱり一番楽しめる。
「恋人と続いたことがないから、夏のイベントを彼氏と過ごしたことがないの」
「冬だってクリスマスに年越しにバレンタインに――カップルイベントいっぱいあるじゃない」
「ケイちゃんは誕生日っていつ?」
「ワタシ? ワタシは十一月よ」
「礼司は三月でしょ? 私は八月なの、夏生まれなの。だから特別なの!」
こだわり過ぎなのは自覚している。だけど周りの友達が誕生日にドラマみたいにプレゼントを貰ったり幸せそうに過ごしている話を聞くと、そのたびに憧れは募っていった。トシを重ねるのが嬉しい年齢でもない。次の誕生日でもう29歳になってしまう。
それでも、大切な人に祝ってもらう誕生日は特別なんだろうなって思うから。
「とにかく! この夏は本気だから!!」
「あー、はいはい」
「ケイちゃん、私にイイ人いたら絶対紹介してね!」
「フフ、わかったわよ」
「じゃあ、夏の恋にピッタリなカクテルちょーだい」
「夏の恋? そうねぇ……」
小首を傾げて沢山並んだ酒瓶を眺めるケイちゃん。少しして出てきたのは、鮮やかなオレンジ色のグラデーションがキレイなカクテルだ。
「テキーラ・サンライズよ。久々に作ったけれどキレイでしょ?」
フフフ、と笑うケイちゃん。
「うん、すごいキレイ! 夏っぽい!」
「味も爽やかだし、みゃーちゃんオレンジ好きでしょ?」
「うん! ありがとう。美味しい!! ね、ケイちゃん。次からココ来たらコレ頼むかも。名前覚えられないからケイちゃんが覚えてて」
「わかったわ。飲みたくなったらいつでも言って」
まだ六月。
夏はこれから。
今年こそは素敵な恋人を作って、礼司とこうやってダラダラ過ごすことなく充実した日々にするんだ。
「……次はゴブレットかしらねェ」
「ん? なぁに?」
「ううん、こっちのハナシよ」
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