第0章 目覚める

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ガチャ、ドアを開けた瞬間、僕の目に見覚えのある景色が飛び込んで来た。何度も目にしたことのある教室。同じ制服を身にまとい、各々の自由を楽しむ生徒たち。 僕は、決して言葉にはできない大きくて新しい衝撃のようなものを受けて、その場で目の前に広がる光景をただ見ることしかできない。 これは、一体何なんだ? 夢、なのか? 不思議なことに、ここにいる生徒全員の名前を、僕は知っている。 ここがどこなのか、それも知っている。 けれど皆、僕に目を向けるどころか僕の存在にすら気づくことなく時間を過ごしている。今さっきクラスの男子生徒が何の戸惑いも無く僕の目の前スレスレを素通りして行ったのは言うまでもない。 まだよく分からない、けれど多分、僕はみんなからは見えない存在なのだろう。 しばらく放心状態になっていた僕を現実に引き戻したのは、少し遠くから聞こえたいくつも笑い声だった。羨ましくなるほどのにぎやかな笑い声。それがどこから届いているのか、探しているうちにふと自分の目線が黒板へ向かっていることに気づく。同時に、僕の目にクラス一の盛り上がりを見せる集団が映る。 僕はやっと、今まで自分が閉じ込められていた部屋から一歩、足を踏み出した。 そしたら止まらなかった。 さっきドアを開けた時のように、何者かに自分をコントロールされているかのように、溢れ出す衝動に身を任せ僕は黒板へ直進していく。 頭のどこかで、誰かが僕を呼んでいる。 テンポ良く、歩く、歩く、歩く。何人かの生徒を僕の体がすり抜けていって、でもそんなことは関係無くて。 歩く。 歩いて、やがて足を止めると僕はすぐそこまでに迫った集団全体をぐるりと確認した。 そして僕は、息をすることすら、忘れてしまうことになるのだった。 嘘だろ、そう思った。 僕が見る集団の中心。 そこに、僕がいた。
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