2人が本棚に入れています
本棚に追加
誰もいない自販機、彼が水を買っているのを見て、僕は声をかけた。こうやって話しかけることも今では毎日の習慣となっていた。
「さっきの友達と帰らないの?」
水を手に、彼はすぐに僕の顔を見た。目が合う。彼の分身ということもあって、彼だけは僕を見ることができる。それに話すこともできた。
「うん、帰らないよ」
「どうして?友達なんでしょ?帰ればいいのに」
「今日は一人で居たい気分なんだ」
鬱陶しそうに僕から目を反らし、彼は歩いていく。彼は僕だけには冷たい。確かにこんな僕となんて目すら合わせたくないのだろうけれど、今彼を逃がす訳にはいかない。
「人と居る間はずっと嘘の自分を演じないといけないからね、疲れるよね」
だからハッキリとした口調で言ってやった。彼の肩が大きく跳ね上がった。僕の計画通り、彼は足を止めて振り返る。
自分でも分かるぐらいの満面の笑みを浮かべる僕を、彼は酷く恐れたような顔で見ていた。
いつも仲間に囲まれて笑っている彼。
みんなから尊敬され、慕われる彼。
そんな彼でさえ、やはり時には人を恨んだり妬んだりするような誰も知らない弱味を握っている。
そしてその弱味を、僕が握っている。
彼と会ってすぐ、僕は知った。
僕は気づいた。
僕はただの分身なんかじゃない。
僕は彼の中に在る醜い部分、それを全て集めて形成された、彼の惨めな分身だったのだ。
最初のコメントを投稿しよう!