第16話 告白6

1/1
45人が本棚に入れています
本棚に追加
/62ページ

第16話 告白6

 昨晩、窓を開けたら、涼しい風と共に、鈴虫の鳴き声が聞こえてきた。昼間はまだまだ暑いけれど、夏が少しずつ過ぎ去っていくのを肌で感じる。  職員室から鍵を持ち出し、図書館に向かう。  鍵穴に鍵を差し込んだところで、声をかけられた。 「木之内先輩」 「…皆川さん」  鍵を抜いて、振り向く。 「すみません、こんな時間に…。早く答えを聞きたくて…」 「ううん、大丈夫だよ」  綾乃が緊張した面持ちで、足元を見つめる。 「…あの件、だけど」 「……はい……」 「…ごめんなさい。皆川さんとお付き合いはできないです」 「……理由を、聞いても、いいですか…?」  綾乃が目を赤くして必死に言葉を紡ぐので、睦月の胸もとても痛くなる。  告白されたことは、純粋にとても嬉しかった。悪意に傷ついた後だったから、純粋な好意に救われた自分がいる。  でも、その感謝を伝えるのは自己満足で、綾乃が喜ぶ答えでもない。素直に伝えるのが、きっと一番いい。  睦月はもう、その関係性を示す言葉を知っている。 「…付き合ってる人がいるんだ」  すごく優しくて繊細で、そのくせ強引で横暴で俺様。  でも一緒にいると何故か楽しくて。  まだ恋とか愛とかよくわからないけど、できるだけ長く一緒にいたいと思ってる。  今すぐ夏伊に会いたいと思った。今日は図書館に来るのかな、何時頃だろうか。  登校してすぐ、グラウンドに寄って、ヒロに声をかけた。 「土曜日はありがとな」  途端にヒロの顔が固まる。 「夏伊が、ありがとな…?」 「いや、言う時は言うだろ」 「そうだっけ?」  ヒロがハハハと笑う。 「ヒロ、ありがとう」  ぴたっと笑いが止まる。真顔になったヒロが、夏伊を見た。 「これまでずっと、ヒロに責められた事も、探りを入れられた記憶もない。何も言わずに居てくれて、ありがとう」  三人は幼稚舎からの付き合いで、カヤとヒロはその頃から、将来は結婚する! と宣言していた。  それが急にカヤが海外に行ってしまって、夏伊も何も言わない。そうこうする内に夏伊は爛れた生活を送るようになって、そんな時もヒロは、夏伊と一緒にいた。 「夏伊、それってなんて言うか知ってる?」 「え?」 「オレと夏伊が友達だからだよ。だから、もう、いいじゃん?」  カヤも戻ってきたしね! と破顔して、夏伊の肩をバンバンと叩く。 「いって、痛いな」 「いーじゃん! オレは今いい気分だよー!」  じゃ、練習するわーと言って、ヒロは手を振って戻っていった。  図書館に向かうと、建物の方から女子生徒が小走りで駆けてきた。  夏伊にぶつかりそうになって、あっごめんなさい、とお辞儀して、去っていく。  顔を前に戻すと、睦月が立っていた。  夏伊を見て、パッと笑顔を見せる。 「夏伊、おはよう。今来たの?」 「ああ」  睦月の目が少し赤くなっている。 「どうした、何かあったか」 「え、何もないよ?」  図書館の鍵を開ける。  夏伊と二人で照明をつけて回って、カウンターのカレンダーを今日の日付にして、PCの電源を入れる。  まだ誰もいない書庫を見回ってから、夏伊の座る席に立ち寄った。 「夏伊、午後時間ある? おれ、図書館閉めた後に買い物に行きたいんだ。付き合ってよ」 「いいな。そうしよう」 ------ 読んでいただき、ありがとうございました。 続編はこちらです。 https://estar.jp/novels/25975341
/62ページ

最初のコメントを投稿しよう!