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第16話 告白6
昨晩、窓を開けたら、涼しい風と共に、鈴虫の鳴き声が聞こえてきた。昼間はまだまだ暑いけれど、夏が少しずつ過ぎ去っていくのを肌で感じる。
職員室から鍵を持ち出し、図書館に向かう。
鍵穴に鍵を差し込んだところで、声をかけられた。
「木之内先輩」
「…皆川さん」
鍵を抜いて、振り向く。
「すみません、こんな時間に…。早く答えを聞きたくて…」
「ううん、大丈夫だよ」
綾乃が緊張した面持ちで、足元を見つめる。
「…あの件、だけど」
「……はい……」
「…ごめんなさい。皆川さんとお付き合いはできないです」
「……理由を、聞いても、いいですか…?」
綾乃が目を赤くして必死に言葉を紡ぐので、睦月の胸もとても痛くなる。
告白されたことは、純粋にとても嬉しかった。悪意に傷ついた後だったから、純粋な好意に救われた自分がいる。
でも、その感謝を伝えるのは自己満足で、綾乃が喜ぶ答えでもない。素直に伝えるのが、きっと一番いい。
睦月はもう、その関係性を示す言葉を知っている。
「…付き合ってる人がいるんだ」
すごく優しくて繊細で、そのくせ強引で横暴で俺様。
でも一緒にいると何故か楽しくて。
まだ恋とか愛とかよくわからないけど、できるだけ長く一緒にいたいと思ってる。
今すぐ夏伊に会いたいと思った。今日は図書館に来るのかな、何時頃だろうか。
登校してすぐ、グラウンドに寄って、ヒロに声をかけた。
「土曜日はありがとな」
途端にヒロの顔が固まる。
「夏伊が、ありがとな…?」
「いや、言う時は言うだろ」
「そうだっけ?」
ヒロがハハハと笑う。
「ヒロ、ありがとう」
ぴたっと笑いが止まる。真顔になったヒロが、夏伊を見た。
「これまでずっと、ヒロに責められた事も、探りを入れられた記憶もない。何も言わずに居てくれて、ありがとう」
三人は幼稚舎からの付き合いで、カヤとヒロはその頃から、将来は結婚する! と宣言していた。
それが急にカヤが海外に行ってしまって、夏伊も何も言わない。そうこうする内に夏伊は爛れた生活を送るようになって、そんな時もヒロは、夏伊と一緒にいた。
「夏伊、それってなんて言うか知ってる?」
「え?」
「オレと夏伊が友達だからだよ。だから、もう、いいじゃん?」
カヤも戻ってきたしね! と破顔して、夏伊の肩をバンバンと叩く。
「いって、痛いな」
「いーじゃん! オレは今いい気分だよー!」
じゃ、練習するわーと言って、ヒロは手を振って戻っていった。
図書館に向かうと、建物の方から女子生徒が小走りで駆けてきた。
夏伊にぶつかりそうになって、あっごめんなさい、とお辞儀して、去っていく。
顔を前に戻すと、睦月が立っていた。
夏伊を見て、パッと笑顔を見せる。
「夏伊、おはよう。今来たの?」
「ああ」
睦月の目が少し赤くなっている。
「どうした、何かあったか」
「え、何もないよ?」
図書館の鍵を開ける。
夏伊と二人で照明をつけて回って、カウンターのカレンダーを今日の日付にして、PCの電源を入れる。
まだ誰もいない書庫を見回ってから、夏伊の座る席に立ち寄った。
「夏伊、午後時間ある? おれ、図書館閉めた後に買い物に行きたいんだ。付き合ってよ」
「いいな。そうしよう」
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読んでいただき、ありがとうございました。
続編はこちらです。
https://estar.jp/novels/25975341
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