ひとつのこと

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ひとつのこと

 私の故郷であるモンス村は山間部にある小さな村だった。住民の大部分が山での仕事で生計を立てていて、私の両親もそうだった。  父は狩人で母は山で取れる植物を使った工芸品を作っている。特に揺り籠は実用性はさることながら、美しい網目がインテリアにも適していて、街に持っていけば高値で取引されていた。  私も姉のユマも、いつか母のような職人になるだろうと言われてきたけど実際そんな未来は想像すらできていなかった。 「エマ違うわ。ここの編み方はこう」 「えっと……こう?」 「違う違う。こっちを交差させて……」 「んん?」  母は仕事の合間に揺り籠の編み方を教えてくれたけど、私はうまく編めなかった。首を傾げる私を母は優しく慰めてくれたけど、安心できなかったのはユマの存在があったから。 「お母さん、どう?」 「あら上手ね、ユマ」 「ふふ、ありがとう」  隣で私より速く綺麗に揺り籠を編んでいるユマは双子の姉で顔と背格好はそっくりだった。  だけど彼女は私より優秀で、物覚えもよかった。学校でも優等生のユマと劣等生のエマという扱いだったし。
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