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あの財布に、いったい何が入っていたというのか?
人に見られては、よほどマズイものが入っていたのか?
だとしても、本当に俺は何も見ていない。
「残念ですが、どちらにせよ、もう手遅れですね」
手遅れ?
どういう意味だ?
男の合図で、俺は再び口をタオルで縛られると、頭からすっぽりと麻袋をかぶせられた。
必死に叫ぼうとしても、抵抗しようとしても、それは無駄なあがきにしかならず、車は俺を乗せたまま走り出した。
長い間、走り続けていた車はどこかに到着したようで、そこで俺は車から降ろされたが、ここがどこなのかは分からない。
ただ、潮の香りと波の音が聞こえる。
ここは……海なのか?
「あなたは手を出してはいけないものに、手を出してしまいました。これは、その代償です」
その言葉は、俺の終焉を予告しているように聞こえた。
担がれていった先は常に揺れていて、どうやら船のようだった。
俺は……本気で殺されようとしているのか?
そう思えば思うほど、全身の震えが止まらない。
どうして……俺が……。
金を……盗んだだけなのに。
どこまで船が進んだのかは分からないが、途中で船の動きが止まると、そこで俺は足に何かを巻かれた。
本当に……ここで俺は死ぬ、のか?
身体が持ち上げられた次の瞬間、宙に浮いたかと思うと、すぐにやってきたのは叩きつけられたような衝撃だった。
ジワジワと麻袋から染み込んでくるものが鼻と口に入ってくる。
俺は、海へ投げ込まれたのだ。
泳ぐことすらできず、ただひたすら沈んでいく中、息もできずに意識が遠のいていく。
いったい、あの財布には何が入っていたんだ?
誰か……教えてくれ!
(完)
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