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振り向いて、安芸くん!
俺、花菱柚月は恋をしている。
片想いの相手は、隣のクラスの安芸怜也。性別は男。
同性だというだけでも不毛なのに、話したのは一度だけで、特に接点も無い。
好きになったきっかけは、俺の落とし物を安芸が拾ってくれた時。
アッシュグレーの髪色、耳には沢山開いたピアスが印象的で結構ヤンチャな見た目をしているのに、見かけによらず耳触りの良い優しい声音と一瞬見せてくれた八重歯が見え隠れする笑顔に胸が高鳴ってしまったのだ。
「柚月!お前なにぼーっとしてんの?次、移動教室だからそろそろ行かねえとやべーけど」
「……あ、ごめん。今用意するわ〜」
1人物思いに耽っていたら、友人の成海理に話し掛けられ、現実へと引き戻された。
安芸を好きだと自覚してから、こうしてぼんやりと安芸の事を考えてしまう。
昨日も一昨日も出くわせなかったから、今日こそは一目でもいいから見たい。
成海と科学室まで移動し、退屈な授業を受ける。
正確には受けているフリだ。
どうにもこうにも、結局安芸の事ばかりが思考を占めてしまう。
そもそもに俺は元々の恋愛対象は女性だったし、まさか同性に恋をするだなんて考えてもみなかった。
可愛らしい中性的な男の子とかではなく、相手は安芸だ。
身長は自分よりも10cmほど高いし、体格だって俺よりいい。何処からどう見ても、れっきとした男である。
だからといって、好きになってしまったものは致し方無い。
元来、俺はわりとポジティブな思考を持ち合わせているので、自分が同性を好きになったという事実も直ぐに咀嚼できた。
今現在の専らの課題は、どうやって接点を作るかだった。
そりゃあ不毛な恋だということは分かっているが、何もせずに諦めたくはない。
どうにかしてそれなりに距離が近付いた暁には告白したいと思っている。
思っているが、接点を作るのは思いの外難しく、片想いをはじめてから約1ヶ月が経とうとしているが何も進展は無い。
……恋愛って難しい。
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