振り向いて、安芸くん!

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今日も一目見れないまま下校になってしまうのかと、無念を抱きつつ帰宅の途につく。 成海や友人達は皆、部活に入っているので、帰宅部の俺は一人で帰ることが多い。 入学して間もない頃は、何か部活に入ろうかとも思ったが特に心惹かれる部が無くてやめた。 中学の頃はバスケ部に入っていたが、そこまで好きだったわけでもないので高校でもやりたいとは特に思わなかった。 なんてったって、運動部は朝が早いし帰りも遅いし、大型連休だって部活や合宿やらで慌ただしい。 俺は、自由にのんびりと自分の好きなように時間を過ごしたいのだ。 それに今は恋が忙しいので部活どころでは無い。 どうしたら接点がもてるだろうかと、うんうん唸りながら学校の最寄り駅まで歩いていた時に事件は起きた。 「―――最低っ!!あんたなんか地獄に落ちればいいのよ!!!クソ男!!!」 駅に向かう途中にある小さな公園から聞こえてきた女性の金切り声に驚き思わず視線を寄せると、安芸が女性に平手打ちをされていた。 女性は泣きながら俺の横を走って横切っていく。 突然の出来事に驚きつつも、再度安芸に視線を寄せると、先程打たれた頬を手で抑えて溜息を吐いていた。 ……一体何が起きたんだ。 粗方、別れ話な事は想像がつく。けれども、こんな漫画みたいな別れ方に遭遇してしまうとは。 思わず、安芸に視線を寄せたまま呆然としていると、まさかの安芸と視線がかち合ってしまった。 「あ………見てた?」 見てたも何も、ばっちり見ていました!!……とは流石に言えず、苦笑いをしながらコクリと頷く。 「……ごめん、丁度タイミング悪く遭遇しちゃったみたいで…」 「いや…こんなとこで話してた俺が悪いし。こっちこそ何かごめんな?」 そう言って困った様に笑む安芸は、やっぱりかっこよくて。不謹慎にも見惚れてしまいそうになる。 「えっと…大丈夫?結構思いっきり叩かれてたみたいだけど」 「あー…結構痛いかも。ズシッときたから、危うくよろけそうになったわ」 そりゃそうだ。だって、バシンッて物凄い音がしたもの。あれは絶対に痛い。 「だよね……あ。俺、ハンカチ濡らしてくるからちょっと待ってて!」 ほんのり赤くなってしまっている頬を見て、これは早く冷やさないと明日に響くだろうなと思った。 公園の端にあった水道でハンカチを濡らし、安芸をベンチに座らせてから濡れたハンカチを渡した。 氷嚢程の冷たさはないが、やらないよりは幾分ましだろう。 「…悪いな、気使わせて」 「全然!俺が勝手にやっただけだし気にしないでいいよ」 「ありがとう、花菱」
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