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「あ…俺の名前知ってたの?」
「え、当たり前じゃん。花菱柚月だろ?」
あ…あ…?!嬉しすぎて頭が混乱する!!
まさか、安芸が俺の名前を知ってくれているだなんて…!しかもフルネーム!
急に舞い降りた幸せに、思わず小躍りしたくなる気持ちをぐっと抑えて平静を装うとしたが、どうしても多少ニヤけてしまうのは許してほしい。
「えっと…さっきのは彼女さん?」
何とか心を落ち着かせて、話を切り出す。
先ほど安芸に罵声を浴びせて泣きながら走り去って行った女性は、確か安芸と同じクラスの人だ。
自分の中での認識は、派手な外見のギャル。そして巨乳。
もしかして、安芸は巨乳が好きなのか?だとしたら、俺も育乳してなんとかこの真っ平らな乳を育てたら振り向いてもらえるだろうかなんて、一瞬阿呆な事を考えた。
「そう。まあ、正確にはさっき別れたから元カノだけど」
苦笑混じりに話す安芸を横目に、俺は内心浮足立っていた。だって、安芸は今しがた完全にフリーになったって事だ。これは最早チャンスとしか言いようがないだろう。
ここで接点を作って、少しずつ距離を詰めていきたい。そして仲良くなった暁には、告白をする!
「あ、あのさ……なんで別れたの?」
不躾なのは承知で、別れた理由を一応聞いておきたかった。
俺はこのチャンスを逃したくはないし、安芸がされたら嫌な事とかがもしあるのなら知っているに超したことはないと思ったからだ。
「意外とぐいぐいくるな」
「あ、ごめん!嫌だったら全然話してくれなくて大丈夫だから!」
「いや、全然いいけどさ。花菱って、大人しいタイプなのかなと思ってたからちょっと意外だった」
そう言ってクスッと笑う安芸に苦笑いを返す。
俺は大人しいタイプだと思われていたのか。確かに昔から、話すと意外だとか言われる事が多々あった。
成海曰く、『みんなお前の外見に騙され過ぎなんだよ』らしいが。
「今回の事に限ったことじゃないけど、俺の気持ちが分からないとか本当に自分の事好きなのかとか言われることが多くてさ。で、さっきもそんなようなこと聞かれたから面倒くさくなって、じゃあ別れるかって言ったらこのざまだよ」
だから自業自得だなと言って安芸は困った様に笑む。
「俺、いままで自分から誰かを好きになった事ないんだよ。でも、付き合うからには相手の事大切にしてきたつもりなんだけど。どうにも伝わらないらしいから、なんかもう面倒くさくなっちゃってさ。もしかして俺って恋愛とか向いてないのかもな」
最後の言葉は、何だかとても悲しそうに聞こえた。
俺からしたら、安芸と付き合えるだけでも羨ましすぎるのに。俺だったら安芸にこんな悲しそうな顔なんてさせないし、もし安芸の気持ちが自分になくても沢山沢山好きを伝えて安芸に全力で愛を伝えまくって振り向かせるのに。……と思ったのと同時に、抑えきれない思いが暴発してしまったらしい。
「安芸、俺と付き合ってくれない?」
そんな言葉が勝手に口をついて出ていた。
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