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「どうぞ。ちょっと、散らかってるけどごめん」
「とんでもない!では、お邪魔します……!」
安芸の家は、学校の最寄り駅から3駅離れたところにあるマンションだった。
俺の家は、あと1駅先なのでわりと近い事がわかって嬉しい。
安芸の住むマンションはとても立派な外観で、安芸の家はきっとお金持ちなんだろうなと思う。
家族に出会してしまったら挨拶しないとなと思いながら、緊張しつつ家に足を踏み入れた。
「とんでもないとか、ほんと面白すぎる。あ、言うの忘れてたけど、うち今親いないから気兼ねなく寛いでくれて大丈夫だから」
「え、そうなの?」
「うん。今年から父親が仕事で海外にいるんだけど母さんもついて行ったからさ。だから実質、1人暮らしみたいな感じ」
「なるほど。仕事で海外とか、かっこいいな。でも1人じゃ、色々大変じゃない?家事とか」
「まあね。でも、もう慣れたかな。ていっても、最低限の事しかできないけどな」
まだ、玄関先だというのに知らなかった事を次々知れてとても嬉しい。
自分は、まだまだ安芸の事を知らないんだなと思うのと同時に、知れば知るほど好きが大きくなっていくんだろうなとも思う。
これ以上好きが大きくなってしまったら、自分はどうなってしまうのだろう。
許容量をオーバーした風船のように、パチンッと弾けてしまうかもしれないなと思ったが、まあそれはそれでいいかと1人頷いた。
話しながら安芸に案内されて入った彼の部屋からは、仄かに甘いムスクの香りがした。
安芸っぽい香りだなあと思いつつ、思わずキョロキョロしてしまう。ここが安芸の部屋…!
シンプルで落ち着いていて、なんだかお洒落だ。
そして広い。いや、玄関先の時点でめちゃくちゃ広いなと思っていたが、安芸の部屋は多分俺の部屋の倍くらいある。
父親が海外赴任していると言っていたし、きっといいところに勤めているんだろう。
俺も良い大学入って良い会社に就職して高給取りになって安芸を養いたい、などと妄想が捗る捗る。
「安芸の部屋、大人っぽくてかっこいいな〜」
「そう?ありがとう。花菱の部屋はどんな感じなの?」
「あー……俺双子の妹がいるんだけど、妹に俺の部屋侵食されてるからやばい事になってるんだよね」
「へえ、花菱って双子なんだ?てか、侵食って何?」
「妹が所謂オタクで、グッズが自分の部屋に置ききれないとかで俺の部屋に勝手に置きだしたもんだから、もうカオス」
我が妹は本当に傍若無人なので、許可等取らずに勝手に俺の部屋に自分の物を置き出したのだ。
元々、俺自身あまり自分の部屋に拘り等は無い方だとはいえ、あまりにも酷い。
が、怒らせると怖いので小さな声で文句を言うくらいしかできない肩身の狭さ。
「まじか、それはやばそう。そのうち、見てみたいな」
「え!うちにも来てくれるの?!」
「花菱がいいなら行きたい。俺も花菱の事、知っていけたらいいなと思ってるし」
「うわあ……嬉しい。ありがとう」
やはり、安芸は良い男だ。きちんと俺の事を考えてくれているし、知ろうとしてくれている。その気持ちがとても嬉しい。
「あ。でも家、母さんが専業主婦だからいつも家にいるし、妹もいるかもだけど平気?父さんは日曜日以外大体仕事だからいないだろうけど」
「全然平気。寧ろ、花菱の家族がどんな人たちなのか気になる。双子の妹は、花菱と似てる?」
「んー、顔は似てるらしいけど性格は似てないと思う。なんていうか、怪獣。…いや、悪魔だなあいつは」
「悪魔って!ますます気になるわ」
安芸の部屋で、他愛の無い会話。
まさか、こんな日がこようとは。
心が満たされるというのは、こういうことを言うんだなと心の中で頷いた。
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