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16日目『ステレオ太陽族』/サザン 4th Al
⭐️収録曲:
1.Hello My Love
2.My Foreplay Music
3.素顔で踊らせて
4.夜風のオン・ザ・ビーチ
5.恋の女のストーリー
6.我らパープー仲間
7.ラッパとおじさん (Dear M・Y's Boogie)
8.Let's Take a Chance
9.ステレオ太陽族
10.ムクが泣く
11.朝方ムーンライト
12.Big Star Blues(ビッグスターの悲劇)
13.栞のテーマ
⭐️発売日:1981年7月21日
⭐️最高位:1位
⭐️売上枚数:48.3万枚
5枚のシングル“ファイブロックショー”とアルバム『タイニイ・バブルス』は、スタジオワークに重点を置いた、サザンの音楽性の成長をうかがわせる作品となりました
テレビなどの“芸能”的な露出は、ほとんど無く、それによって、サザンオールスターズというバンドの音楽性を理解するファンが増えていくことは、サザンにとっての願いだったのかもしれません。
その一方で、ジャム(今で言うところのフェス)などへの出演や、自身の全国ツアーは欠かすことなく、むしろ、これまで以上に積極的に行い、この時期のライブ活動が“ライブバンド”サザンの礎になったのかもしれません。
“芸能的”な不特定多数の視聴者の満足を優先するよりも、“ミュージシャン的”な、サザンの音楽を愛するファンの満足を優先した活動は、実に、今に至るサザンの活動指針になっている気がします。
テレビ番組に出ているくらいならば、大勢のファンの前で歌っていたい
「紅白歌合戦」よりも「年越しライブ」という――
自らの意思で求めたのは、自分達の音楽性を愛してくれるファンだと、その活動で示していくのです
そして、そんな活動の駆け出しでは、大衆受けするであろう、派手で目立つシングルや楽曲は意識的に作らなくなっていきます。
大衆に向けられない“大衆音楽”は、果たして“大衆音楽”だったのか?
この時期のサザンの音楽性に“大衆性”というキーワードは、馴染みませんでした。
もしも、大衆性に頼らないサザンだとしたら?
もしも、ヒット曲を作ろうとしないサザンだとしたら?
これほど今の大きな存在になれたのでしょうか?
やはり、サザンは世の中に挑戦しながらも、世の中に的を当てる存在でもあるのです。
サザンの予定調和をどこかで誰もが望んでいるのです。
けれど、サザンは“挑戦”を続けます。
1981年もまた、サザンにとっての“挑戦”の年でした。
貪欲な音楽性を、“映画音楽”に向けていきます。
映画『モーニングムーンは粗雑に』の音楽監督に抜擢されるのです。
聴くものを楽しませるためにリスナーに向けられていた音楽から、映画という作品を盛り上げるため作品に向けられる音楽へ――そのアプローチは、バンドとしても新しい挑戦となります。
所属事務所アミューズ制作の映画であり、事務所の思惑もあったのかもしれませんが、バンドが映画作品の音楽をプロデュースする――そこには自分達のこれからの方向性の模索もあったのかもしれません。
バラエティが色濃いテレビを離れ、スタジオにこもり、ステージに出ていく――
その中でリリースした作品のセールスは、テレビを離れる前に比べて、次第に落ちていく・・・それにともない、ステージの客席にも空きが増えていく・・・
どう進むべきか?どうあるべきなのか?
迷いの中でも、音楽に没頭することを選び――その答えを得るために、サザンは次の“勝負”に出たかったのではないでしょうか?
そんな“勝負”に最大のキーマンとなる人物が後押しをします。その人物こそが、この頃のサザンに多大な影響を及ぼした八木正生(故人)さんでした。
八木さん自身が、日本のジャズの第一人者のひとりであり、サザンにとっては最も信頼のおけるアレンジャーだったのです。
八木さんのサポートやアレンジにより、サザンは新しい音楽性を開花します。
その答えこそが、4枚目のアルバム『ステレオ太陽族』です。
映画『モーニングムーンは粗雑に』の主題歌としてリリースされたシングル『Big Star Blues(ビッグスターの悲劇)』、挿入歌となった『朝方ムーンライト』『栞のテーマ』『恋の女のストーリー』が含まれている、まさに“半サントラ”的なアルバムでありながらも、アルバムとして、非常に1曲1曲が瑞々しく輝く、“バンドの作品”なのです。
そして、“ジャズマン”八木さんのアレンジが最大級の影響をサザンオールスターズに与えたのでしょうか、これまでの3枚に比べて、ジャズテイストの曲が多く、ぐっとアダルティブに、お洒落になった、もはやサザンが“別モノ”とも思えるほどの成長を遂げるのです。
この『タイニイバブルス』から『ステレオ太陽族』への“イメチェン”然り、サザンはアルバムをリリースする度に、成長していくとんでもないバンドです。
その背景には、ソングライター桑田さんの強靭なモチベーションと吸収力があることは言うまでもありません。それはつまり、桑田さんの非常に“感化”されやすい体質と、それを“絶対に自分も表現したい”という粘り強く妥協のない姿勢にあります。
“八木正生さん”という、稀有な天才アレンジャーと、その音楽性を吸収しようとするサザンの試行錯誤の末に、咲かせていった花が、『ステレオ太陽族』なのでしょう。
しかし、リスナーにそんな“苦闘の跡”は決して聴かせません。聴く人達の耳に残るのは、スッと心に響く、メロディとアレンジの“柔らかさ”――
『ステレオ太陽族』ほど、サザンのアルバムで“柔らかさ”を感じるアルバムは無いと思います
1曲目の『Hello My Love』から、『素顔で踊らせて』、『恋の女のストーリー』、『ムクが泣く』、そしてアルバムをしめくくる『栞のテーマ』
確かに挑戦的なロックナンバー『My Foreplay Music』や『Big Star Blues』も光りますが、バラード曲のテイストが、今までのサザンバラードに眠っていた“柔らかさ”にようやくスポットライトを浴びせ、それらの曲は、まぶし過ぎるほど輝いているのです。
そして、それに従って歩いていくかのように、このアルバムの桑田さんのバラード曲の歌い方までもが変化し、圧倒的に“柔らか”く、これまでとは明らかに【別格】なのです。上手いのです。心に響くのです。
これは、桑田さんという名ボーカリストの名唱を味わう“ボーカリスト・アルバム”なのかと思わずにはいられないのです
いつ聴いてもこの『ステレオ太陽族』は完璧な完成度を誇るアルバムだと感じます。
最高の演出家があって、最高の楽団があって、最高の歌い手が揃った、“ひとつの舞台”なのです
それはつまりサザンがバンドとして、ひとつの世界観を手にした瞬間だったのかもしれません
そんな自信があったからこそ、この次の年、メディアの表舞台に帰ってきます。
ヒットシングルも生まれます。
やがて、国民的バンドと呼ばれます。
華々しい栄光の活躍を予感させるような“安らぐ胎動”と“血の通ったぬくもり”を『ステレオ太陽族』から、今日も感じるのです。
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