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20日目『NUDE MAN』/サザン 5th Al
⭐️収録曲:
1.DJ・コービーの伝説
2.思い出のスター・ダスト
3.夏をあきらめて
4.流れる雲を追いかけて
5.匂艶THE NIGHT CLUB
6.逢いたさ見たさ病めるMy Mind
7.Plastic Super Star(Live In Better Days)
8.Oh!クラウディア
9.女流詩人の哀歌
10.Nude Man
11.猫
12.来いなジャマイカ
13.Just A Little Bit
⭐️発売日:1982年7月21日
⭐️最高位:1位
⭐️売上枚数:97万枚
『積極的に勝負に出る!』――1982年の年頭から行われたコンサートツアー「愛で金魚が救えるか? サザンオールスターズPaa Pooツアー」では、そんな並々ならぬ闘志を内に秘めて、ファンの前に登場したサザン。
『ヒット曲を出します!テレビにも出ます!』
1980年から〝メディア離れ〟を意識したサザンの活動が少し前向きに、大いに大衆的に軌道修正されます。その要因が『チャコの海岸物語』というサザンの活動史における最大の〝勝負曲〟だったのではないでしょうか?
当時のアイドル台頭の音楽界に、正当な歌謡曲で勝負し、トシちゃんの歌い方でアイドル業界をも茶化してしまう。
デビュー曲の『勝手にシンドバッド』以来の〝芸能的〟な曲であり、メロディーやアレンジの音楽性が〝古典的〟なド歌謡路線。
そして、きわめつけは、ツアー中の1月19日、札幌厚生年金会館のステージ上で、桑田さんの口から発表される、原さんとの結婚報告。
シングル『チャコの海岸物語』をテレビでコスプレパフォーマンスするサザン、芸能ニュースや週刊誌では、メンバー同士の結婚、その後、ファン3000人を招いて行われた結婚披露宴に話題が集まる中、『チャコの海岸物語』は空前の大ヒットを飛ばし、サザンは再び、第一線にカムバックしてくるのです。
1982年夏にリリースされた5枚目のアルバム『NUDE MAN』は、サザンのイメージを決定付ける上で、最高のアルバムとなりました。
〝サザン〟という季語が〝夏〟であることを世の中にこれほどまでに伝えるアルバムは今まで無かったことでしょう。
“湘南サウンド”と“陽気なキャラクター”――それを合わせ持つデビュー曲から、知らず知らずのうちに<サザンは〝夏バンド〟である>という潜在意識が浸透する中で、サザン自らが、そのイメージに焦点を“当てに行った”――初めてのアルバムなのかもしれません。
そのコンセプトは、もろに“夏だ!海だ!サザンオールスターズだ!”と言わんばかりのラインナップが並びます。
世間に一番イメージとして訴えかけるジャケットは、“海”と、その波間に飛び込む“裸体の人物”
インパクトも十分(撮影シーンを想像したら笑えてしまいますが)、明確な“夏のアルバムだ”という意思表示――ジャケット1枚だけでも、サザンオールスターズがどんなバンドであり、どんなイメージを世に与えたいのか見てとれます。
そんな、世間の受け手を相当意識した姿勢は、分かりやすくもあり、安心感もあり、浸透しやすく、『NUDE MAN』もまた『チャコの海岸物語』と同じく、瞬く間に大ヒットを記録します。
この2枚の作品が、サザンオールスターズのイメージを非常に上手くリレーした功績は、本当に大きいのです。〝チャコ〟と〝NUDE MAN〟は、間違いなくサザンというバンドの最大の強みになりました。これらの作品が、80年代にあり、ヒットしたからこそ、今のサザンがあると言えるでしょう。
『NUDE MAN』は、その名のとおり、まさに“裸”のサウンドで出来あがったアルバムだという気がします。
1曲目の『DJ・コービーの伝説』の野太いロックサウンドが、ライブ感溢れる〝オンステージ〟に私達を誘います。ひとつひとつの音が、実にストレートに飛び込んでくるのです。
前作『ステレオ太陽族』の〝スタジオ〟的な響きとはまた違う、外に出ていくような、〝ライブ〟的な音の鳴り(上手く表現できませんが・・・)は、サザンがフェスやツアーで培ってきた賜物ではないでしょうか?
〝内から外へ――〟1曲目の『DJ・コービーの伝説』は、〝打ち破る〟曲であり、〝内破る〟曲に聴こえます。〝外へ外へ――〟サザンが追い求めた景色はなんだったのか?その問いの答えが、2曲目の『思い出のスターダスト』に早くも登場します。枠に収まらない、小さくなろうとしない、心地よいアレンジ――壮大な〝解放感〟が、サザンが追い求めた景色であり、このアルバムの答えである気がします。
早くもこのアルバムの作品性をリスナーが理解した上で、それ以降の10数曲は、めまぐるしく寄せては返す波のような衝撃を与えます。
筆頭は3曲目の『夏をあきらめて』、そして『流れる雲を追いかけて』のタイプの違う〝歌謡バラード〟
同じ歌謡曲の下地を持ちながら、『夏をあきらめて』は、洋楽ルートの〝湘南サウンド〟、『流れる雲を追いかけて』は、古典的な〝大陸歌謡〟
この瑞々しい音楽性の豊かさは、洋楽ロックに影響を受けた桑田さんと、そんな桑田さんの奥に知らず知らず眠っていた日本人のアイデンティティである歌謡エッセンスを呼び起こした八木正生さんのアレンジの融合にあるのではないでしょうか?
そして、それに続く、シングルヒットもした『匂艶THE NIGHT CLUB』が、歌謡とラテンとロックを混在させながら、うねる波のように、心を躍らせます。
この斬新な流れはサザンの歴代アルバムの中でも屈指の流れです。
ここを聴き抜けるだけで、このアルバムの本当の価値に気付かされるのです。
一転、ポップな『逢いたさ見たさ病めるMy Mind』、後半はまたも、限りなくロックな『Plastic Super Star』――ライブアレンジが、このアルバムを〝ライブ〟感とともに〝外へ外へ――〟と押し出します。歓声と拍手のSEでしめくくると、ビートルズの『サージェントペパー』が脳裏をよぎります。もう最後の『A DAY IN THE LIFE』なのだろうか?そんな既視感めいた感覚に寄せて、名バラード『Oh!クラウディア』が用意されます。素晴らしい曲です。泣かせます。。
これでアルバムも大団円かと思いきや、まだまだ、その音楽性の広さを提示し足りないかのように、続く『女流詩人の哀歌』でスタイリッシュに、『Nude Man』でコミカルに、表情の違いは、そのまま桑田さんのボーカリストとしての多面性であり、驚かされます。
『猫』、『来いなジャマイカ』で、ファーストアルバムからのサザンの〝遊び心〟と〝自由さ〟を最後の最後に持ってきます。アルバムの流れがあまりにも〝2枚目〟だったので、そんな照れ隠しのようにも思えます。これから、サザンはどんどんと〝2枚目〟になっていくのですが・・・。
ラストナンバー『Just A Little Bit』は、このアルバムの結びとして、最も相応しいアレンジであり、このアルバムを名盤に押し上げる最後の落款でしょう。
〝何もかもストレートで正直〟本当に表も裏もなく、響かせたい思いだけで、作られたアルバムが『NUDE MAN』ではないでしょうか?
この後、サザンは、その音楽性をさらに充実させていき、デジタルという時代の音との〝勝負〟に挑みます。そんな〝格闘〟の前に、真摯で素直に音楽に向き合った『NUDE MAN』は、いつ、どんな人が、どんな時代に聴いても、人の心に響かせる何かがある気がします。それが、音楽が行き着く〝裸の心〟ではないでしょうか?
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