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24日目『綺麗』/サザン 6th Al
⭐️収録曲:
1.マチルダBABY
2.赤い炎の女
3.かしの樹の下で
4.星降る夜のHARLOT
5.ALLSTAR’S JUNGO
6.そんなヒロシに騙されて
7.NEVER FALL IN LOVE AGAIN
8.YELLOW NEW YORKER
9.MICO
10.サラ・ジェーン
11.南たいへいよ音頭
12.ALLSTAR’S JUNGO(Instrumental)
13.EMANON
14.旅姿六人衆
⭐️発売日:1983年7月5日
⭐️最高位:1位
⭐️売上枚数:63.7万枚
80年代初頭より、世界的な流れとなっていくデジタルレコーディングは、よりスタジオ的なサウンドワークへとサザンを導きます。
導くというのか、サザン自らがそこに飛び込んで行った印象もあります。
1982年、大衆的な『チャコの海岸物語』と『NUDE MAN』という作品がありながら、そこに安住することなく、ロックバンドとしての革新的な挑戦心を忘れていません。
1983年、アプローチの第一弾となる『ボディ・スペシャルⅡ』では、打ち込みのロック・ビートで〝勝負〟に出ます。デビュー時の、青春の熱量に満ちたグルーブとはまた違う、緻密な熱量がサウンドに漂います。『ボディ・スペシャルⅡ』は、ライブで、より〝ライブな曲〟にも変貌しますが、スタジオワークの中でも、ライブを想定した、曲の中に耐久性の高い土台を作れるサザンはさすがです。
前年の大活躍で、サザンを〝国民的バンド〟に推す風潮のある中で、保守的にならず、新しさを求めるサザンの一面は、時代の先端を走るバンドとして必然だったのでしょう。
デジタルレコーディングに可能性を求めたサザンは、新たなサウンドを追う中で、これまでに取り組んだどのアルバムよりも多種多様な音楽性を詰め込んだ、非常に音楽的なアルバムを発表します。それが6枚目のアルバム『綺麗』です。
(この時点で、これほど多様性に富んだアルバムは無かったはずなのに、その後に発表されていくアルバムは次々と前作を凌駕していきますが・・・)
オープニングを飾る『マチルダBABY』は、シンセサイザーを導入した、サザンとしては初めての楽曲となります。1曲目にいきなり、サザンが今、表現できる最新鋭をぶち込んできます。
この後のアルバム『人気者で行こう』『KAMAKURA』でも、それぞれのオープニング曲『JAPANEGGAE』『Computer Children』は、前衛的に挑戦したナンバーで〝勝負〟に出ていますが、時代の音を色濃くしながらも、どの曲も時代のポップスやロックに当てはまらず、その枠を飛び出そうとして、21世紀になった今でも、ライブの核となる曲になってしまうのです。
デジタルという時代の音を目指しながら、その芯は、どこまでも音楽的であり、決して、安易にサウンドに頼った曲を作っているわけではないのだと思います。
『綺麗』には、洗練されたアレンジのイメージが強いのですが、ロックはロックをやり抜き、歌謡曲は歌謡曲をやり抜き、そのそれぞれのコンセプトをきっちりこなした優秀な楽曲の集まりを感じます。ひとつひとつが、味わいを持ちながら、主役にでることなく、ひとつのコース料理として、全体を調和させているのです
一曲一曲が、一皿一皿、テーブルに置かれていくように聴くものを驚かせ、うならせ、涙させ、笑顔にさせ、深い味わいが余韻として、次の一皿に残っていく緻密なコース料理のように思えます。
バリエーションの豊かさは、同じジャンルがまったく無いという飽きのこない時間を生み出します。
名シェフの、まさに、〝アルバム〟というコース料理を最初から目指していた姿勢には、これからのサザンの、スタジオミュージシャン的な立ち位置を予感させます。
シングル曲『EMANON』も、最初からシングル曲を作ろうとして作られた〝大衆的〟な曲という感じはしません。アルバムナンバーとして、非常にクオリティの高い曲が出来上がり、だからこそシングルにした、というイメージが強いです。
なので、よりシングル向けな『ボディ・スペシャルⅡ』も収録されていない理由が分かります。
サザンは、アルバムの〝商品価値〟を求めたのではなく、より〝作品性〟を求めたのです。
『そんなヒロシに騙されて』でGS歌謡を、『NEVER FALL IN LOVE AGAIN』でジャズを、ハワイアンな『南たいへいよ音頭』もあれば、アフリカンな『ALLSTAR’S JUNGO』もある。
野心的でありながら、保守的な音楽嗜好は、サザンの専売特許であり財産でもある驚異の柔軟性と平衡感覚そのものです。
こんなにも美味しいご馳走をいただきながら、最後の最後のメインディッシュが、ファンのみならず、スタッフやステージクルーにも感謝を伝える渾身のロックナンバー『旅姿六人衆』であることに涙を禁じ得ません。
革新的なデジタルレコーディングを次第に導入していく行程で、ラストナンバーが、より〝生〟のサウンドの『旅姿六人衆』であることに大きなメッセージを残した気がします。
これからサザンは、壮大で険しい音楽の“旅”に向かいます。
その道のりの景色が、どんなに変わったとしても、自分達のスタイルの根本はきっと変わらない。
そこには、変わらないファンと、変わらない仲間がいるのだから――
料理を食べ終えたテーブルの上に残されていたのは、シェフから皆さんへの、そんな心温まるメッセージカードだったのでしょう。
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