5日目『10ナンバーズ・からっと』/サザン 2nd Al

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5日目『10ナンバーズ・からっと』/サザン 2nd Al

⭐️収録曲:  1.お願いD.J.  2.奥歯を食いしばれ  3.ラチエン通りのシスター  4.思い過ごしも恋のうち  5.アブダ・カ・ダブラ(TYPE.1)  6.アブダ・カ・ダブラ(TYPE.2)  7.気分しだいで責めないで  8.Let It Boogie  9.ブルースへようこそ  10.いとしのエリー ⭐️発売日:1979年4月5日 ⭐️最高位:2位 ⭐️売上枚数:67万枚 『勝手にシンドバッド』という極めて特異的な曲がデビュー曲だったことは、サザンにとって幸か不幸か、世間に強烈な印象を与えました。 当時の流行歌である『勝手にしやがれ』と『渚のシンドバッド』を合体させた奇抜なタイトル(元ネタは志村けんさんだとのちに語られますが)と、サンバのアレンジ、ハイテンションなボーカル。 テレビが情報の発信源であり、そのテレビが今よりもバラエティ番組に溢れていた当時、 『勝手にシンドバッド』というツッコミ要素満載の歌を歌うサザンオールスターズは、格好の「ネタ」だったのです 〝コミックバンド〟 〝お祭りバンド〟 そんなイメージは、瞬く間に浸透し、歌番組に出ればスーパーマンのコスプレで宙づりにさせられたり、コスプレでコントをさせられる――ひどい時には、歌を歌わずにイントロの〝ラララ〟だけで収録が終わることもあり、 世間がサザンに求めるものは、〝音楽性〟ではなく〝面白さ〟だったのかもしれません。 クラスに転校してきたヤケに目立つ新入生は、〝学業優秀な生徒会長タイプ〟なのか〝面白おかしくみんなを盛り上げるお調子者タイプ〟なのか?個性は本人が主張するものではなく、周りが定義して成立するものであり、「第一印象」とは、その言葉のとおり、ひとつの強いイメージを差別的に相手に委ねなければならないのです―― 1stアルバム『熱い胸さわぎ』を聴き、〝音楽的〟に途方もない可能性を秘めたバンドであることに気付かされたとしても、植え付けられた“破天荒”なイメージとそれを後押しする“空気”は、まだまだサザンに〝面白さ〟を求めるのです。 「次のシングルは面白ロック第2弾だ!」 レコード会社の思惑も相成り、半ば刹那的に産み落とされたのが2ndシングル『気分しだいで責めないで』でした。 のちに、桑田さんの〝トラウマ〟として語られることも多い(今はだいぶ立ち直れた?)〝不本意な〟2ndシングルは、狙い通りヒットを飛ばし、コケることもなく、サザンの「お祭りバンド」というイメージを盤石にするものとなりました。 世間のイメージと自分達の理想とのジレンマ。音楽制作にかける時間を割いてまで、バラエティ番組にも出演する多忙なスケジュール。 テレビで「ノイローゼ」と連呼しながら歌う桑田さんの姿は、素の心の叫びだったのかもしれません。 『気分しだいで責めないで』の歌詞も、サザンなりの〝メッセージソング〟とも受け取れてしまいます。 そんな不満をいつまでも抑えきれず、ついに噴出させたのは、次のシングルへのアプローチでした。 3rdシングルもレコード会社の意向は、同じ〝面白ロック路線〟 当初、挙がっていたのは、のちにシングルカットされる『思い過ごしも恋のうち』―― そこを受け入れるのか反発するかの中で、サザンは、〝自分達が今、世の中に届けたい歌〟として、頑なな決意を抱かせる曲が出来上がったのです。それが『いとしのエリー』です。 ラジオの公開番組で初披露した時も、会場の反応は水を打ったように静まり返り、チャート売上の順位も、そんな反応どおりTOP10にも及ばず、、「これがあのサザン?」と驚きを持って迎えられます。 販売戦略もセオリーも思惑もイメージも覆した『いとしのエリー』は、正真正銘のスタンダードバラード。じわじわと世の中に広まっていくうちに、美しい旋律と、情緒豊かな味わいのあるボーカルが評判に評判を呼び、チャートも上昇。そして、ついには、『勝手にシンドバッド』を超えるセールス、歌番組の「ザ・ベストテン」では第1位など、次々と記録を打ち立てていくのです。 デビューからわずかに10ヶ月――サザンは、音楽業界の常識を覆す『勝手にシンドバッド』と『いとしのエリー』という両極端にある〝二面性のイメージ〟をまざまざと見せつけたのです。 〝音楽業界への挑戦状〟は、奇抜なデビュー曲よりも、それを受けてからの正当派バラードにありました。そんな姿勢が、この先も〝革新と王道〟を兼ね備えていく――いかにもサザンらしかったりもするのです。 きっと、この『いとしのエリー』の成功が、プロミュージシャンとしての、サザンの自信となったのでしょう。 だからこそ、アマチュア時代の曲ばかりで構成された1stアルバムに続く2ndアルバムは、作り込んだ、プロミュージシャンらしい作品性に溢れたアルバムにしたかったことでしょう。 しかしながら、 <鉄は熱いうちに打て> <ブームは来ているうちに乗っておけ> デビューシングルの常識外れのスタートダッシュは、レコード会社の不安を煽ったのかもしれません。サザンオールスターズを、瞬発的な“短距離ランナー”なのだと見誤ったのかもしれません。 デビューからわずか10ヶ月余りで2枚目のアルバムがリリースされるスケジュールが提示されます。 多忙なテレビ出演にままならぬアルバム制作――ついに完成した2ndアルバム『10ナンバーズ・からっと』は異常な舞台裏の喧噪の中で産まれたアルバムだったと言えます。 〝10ナンバーズ〟というのに、実質、1曲は2テイクに振り分けられた〝9ナンバーズ〟 ある歌の歌詞は、締切に間に合わず〝○△・・・〟記号表記の羅列(仮歌の歌詞のままだったとも・・・) ジャケット写真は、過密スケジュールのイライラでカメラマンと喧嘩したあとに撮られたと言われる、不機嫌な桑田さんの表情。 〝慌てぶり〟がどこか見え隠れするアルバムという印象を受けざるをえません・・・ それでも、肝心のひとつひとつの楽曲に目を向けると、さすがというか、一切のほころびも感じさせない、完璧で素晴らしい曲ばかりであり、驚かされます。楽曲のクオリティには妥協が無かったのです。 のちに小林克也さんが、ラジオ番組のタイトルにこの曲を用いるなど、多くのファンから愛されるナンバー『お願いD.J.』 ライブレパートリーとして、非常に濃いアクセントを持つ『奥歯を食いしばれ』 切なくも甘い、隠れた名曲中の名曲『ラチエン通りのシスター』 シングルヒットもしたエネルギッシュでキャッチーな『思い過ごしも恋のうち』は、『当って砕けろ』に並ぶサザンの〝初期の応援ソング〟の代表格 〝遊び心〟も忘れない、アルバムの大事なコーヒーブレイク的な『アブダ・カ・ダブラ』 当初の荒削りなアレンジからじっくり時間をかけたかのような別アレンジで耳馴染みも良くなったヒットシングル『気分しだいで責めないで』 ブギ調が明るく楽しい『Let It Boogie』と、それに続くアンニュイなテンポの『ブルースへようこそ』の流れは、心惹かれるものがあります。 すべての曲を経たエンドロールの『いとしのエリー』は、アルバムの余韻をなんとも言えない充足感で満たします。 確かに、この『10ナンバーズ・からっと』は、画竜点睛を欠くまでなく、満足な時間を与えられなかった“未完成品”なのかもしれません・・・。 でも、粒ぞろいの楽曲は、今なお愛されていく曲ばかりです。 『10ナンバーズ・からっと』は、当時は〝『いとしのエリー』を聴けるアルバム〟として、重宝されました。そして、そのコピーに決して恥じることのない“日本の青春の1枚”として、時代にその名を確かに刻んだのです。  
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