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アパートの玄関の向こう側から聞こえる、ガサガサという不快な音で目が覚めた。
白い天井を少しの間ぼうっと見つめてから、外からの光の侵入を一切許さないというように、しっかりと閉められた遮光カーテンを開ける。
眩しい光を遮るように目元を腕でかばって窓とは反対の方を向くと、俺は寝起きの半目を見開いた。
「なんだよ、これ……」
部屋はまるで怪獣が暴れ回った後のように、散らかっていた。
倒れた本棚に収納してあった本やDVDはあちこちに散乱し、クローゼットの中に
仕舞ってあった洋服も、床に投げ出されてぐちゃぐちゃだ。
乱暴に叩きつけられたかのように画面が割れて中の部品が飛び出しているテレビは、コンセントまで引きちぎられている。
思わず口元を覆いたくなるほど、窓から差し込む光は、空中に漂う埃を浮かび上がらせて、引っ越してきた当初に購入した黒塗りのテーブルの上は、うっすらと白くなっていた。
なぜか力の入らない体でなんとか立ち上がった俺は、小さく悲鳴を上げた。
湿気を含んで所々カビが生えたベッドで、俺は眠っていたのだ。
どれもが、綺麗好きの自分には信じられないような光景だった。
「なんだよ、これ……」
さっきと同じことを呟いて頭を掻くと、いつから風呂に入っていないのか、髪の毛がべたついていた。
そのことに気がついたとたん、とてつもない悪臭を感じた。強烈なアンモニア臭。生ごみがくさったような臭いもする。
部屋の臭いなのか自分の臭いなのかと考える間もなく、両方だと結論が出る。
ふと部屋の一角に置いてあるひびの入った全身鏡が目に入り、おぼつかない足を
引きずるように歩いて俺はその前に立った。
鏡に映った自分の痩せた体を見て、俺は目を疑った。
こけた頬、血色の悪い紫の唇、筋肉がおちた細い腕、へこんであばらが浮いた腹。
充血した目のまわりは、血が出るほどこすったような痕があった。
自分であるはずなのに知らない奴がそこにいて、俺は混乱した。
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