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いったいなにが起こったんだ。
寝て起きたら部屋が散らかっていて、体は痩せて。どうしてこうなったのかが、
なにもわからなかった。
もしかして……夢でも見ているんだろうか。
再び動き出そうとしたとき、突然めまいがして、俺はがくんと膝をついた。
視覚的刺激が強すぎて、ワンテンポ遅れて空腹感に気づく。食事も、いつから摂っていないのだろう。
これが夢の中だとしたら、思い描くと豪華な食事が出てくるんじゃないかと、好物の春巻きを想像してみたが無意味だった。
やっぱり、夢じゃないのか? 警察に通報したほうがいいんじゃ……。
だけど、なんと言って説明するんだ。
「起きたら部屋が散らかっていて、とんでもない悪臭がして、体が痩せていました」なんて言ったところで、頭がおかしい奴の悪ふざけだと思われるに違いない。
俺は長くため息を吐き、気を抜くと倒れ込みそうになる体に懸命に力を入れて立ち上がった。
壁に手をついて歩き、希望をこめて冷蔵庫を開けるも、コンセントが刺さっていなかったらしく、食べ物は腐って虫がわいていた。
その虫に手を伸ばそうとしている自分に気づき、怖くなった。
ベッドに繁殖するカビすらおいしそうに見えてくるほどお腹が空いていた。
なにか、買いに行かなければ……。
正直、この状態で外を歩ける自信はなかったが、ここにいても腹は満たされないのは確かだった。
白く埃が積もったテーブルの上に財布を見つけて、それを片手に玄関のドアノブに手をかけた。
ガサガサ、と音がした。不気味に思い、少し身構える。
覗き穴を確認しても誰の姿もなかったので、俺は恐る恐る扉を開けた。
顔だけ出して、外の様子を確認する。俺はすぐに、外側のドアノブにかかっている白いビニール袋を見つけた。
「なんだ、これ」
不審に思いながらも中を見てみると、コンビニのおにぎりやペットボトルの飲み物がたくさん入っていた。
痛いくらい、お腹が鳴った。乾いた口の中は一瞬にしてよだれが溜まり、半開きの口の端を垂れていった。
誰が置いたものかもわからないそれらを、俺はその場で貪るように食べ始めた。
ひとしきり食べたものの、いきなり食べ物を押し込まれた胃が受けつけず、ほとんどトイレにリバースしてしまった。
結局、ビニール袋に入っていたペットボトルの水をちびちびと飲みながら、俺はぐったりと壁にもたれかかった。
「夢なら、覚めてくれ……」
ぽつりと自分の口から出たその言葉に、脳みそを揺さぶられる。既視感が体中を駆け巡った。
しかしその正体に辿りつけないまま、気を失うように眠ってしまった俺の頬に涙が伝った。
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