ブルードットダイアリー

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いま、この人はなんて言った? 死んだ……そう言ったのか? 俺の心臓は、ばくばくと大きく脈打っていた。 彼女は、まるでなにかを訴えかけるように、俺をじっと見ている。 その視線から逃げるように、俺は少し俯いた。 さっきまであまり気に留めていなかった、彼女が着ている淡いブルードットのワンピースがやけに気になり始める。 前にも、このワンピースを着て笑う彼女を見たことがあるような、そんな気がして……。 冷や汗が背中を伝う感覚が、怖いくらいにリアルだった。 激しい頭痛に襲われた。このまま頭が割れて、裂け目からなにかが這い出てきそうな感覚だった。 苦悶に顔を歪める俺の肩に、冷たい彼女の手が触れた。そうすると不思議と、頭痛が少しだけ和らいだ気がした。 「あなたはこれ以上、この電車に乗っていてはダメですよ」 優しく語りかけるような声だった。なぜ彼女がそんなことを言うのかわからない。 それなのに俺の視界は、みるみるうちに涙で覆われていく。むしょうに彼女に縋りつきたくて、しかたなかった。 「君は、どうするんですか?」 「私はこのまま、終点まで行きます」 「だったら、俺も一緒に連れて行ってくれませんか」 彼女はやんわりと首を振った。 「終点まで行くと、あなたは戻れなくなってしまいます」 「それでもかまいません」 決して投げやりに言ったわけではなかった。本当に、素直に、そう思ったのだ。 そんな俺に、彼女は悲しげな様子で聞いた。 「どうしてですか?」 俺の口は勝手に動いて、こう答えていた。 「……君が、いないから」 その瞬間、頭痛がはじけ飛ぶように消えて、いろんな記憶が、滝のように激しく 俺の中に降り注いできた。
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