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「『お前の力を必要としている。是非とも俺の元で仕えてくれないか。』あの方はそう言って頭を下げた。貧乏で名もない足軽の私に、尾張では知らない者のいない織田信長が、だ。信じられなかった。夢でも見ているのかと思った。だけど信長様は本気で私を必要としてくれた。ずっと封印してきた力をこの人の為に使おうとその時に決めたのだ。」
「秀吉さん……」
「お前も似たようなものではないのか?」
「え?」
「未来から来てこの先どうなるのか、知っているのだろう?そして信長様はお前のその知識を必要としている。お前も私もあの方の為に生きているようなものだ。」
「そっか。確かにそうですね。」
蘭が今気づいたと言わんばかりに目を大きくすると、秀吉はふんっと鼻で笑った。
「さぁ、無駄話はこれで終わりだ。もうすぐ着くぞ。」
ハッと前を向くと暗闇にうっすらと山のシルエットが浮かんでいた。蘭の顔が引き締まる。
(あれが比叡山……)
気を抜いたら震えそうになる体を必死に押さえながら、蘭は山頂の延暦寺を目指して進んでいった。
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