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「それはそうと帰蝶様。わたしが戻って来たからにはまた未来と繋がる事が出来ると思うのですが、如何いたしますか?」
「え?」
「わたしの『共鳴』の力で未来にいるイチさんと連絡が取れるという事です。もし帰蝶様がお望みになられるならわたしはご協力いたしますよ。」
「あ、そっか……市さんが帰って来てくれたって事はイチと連絡が取れる訳だ。言われるまで気づかなかった……」
「俺も……」
二人とも顔を見合わせて複雑な気持ちになった。この世界にきてもう十年以上経っている。最初の頃は早く帰りたくて堪らなかったし、その為に市やねねの協力で未来からタイムマシンを取り寄せた事もあった。でも今は二人ともこの世界にどっぷりハマっていて、森蘭丸と帰蝶として生きている。今更未来と連絡が取れると聞かされてもイマイチピンとこなかった。でも……
「やっぱりイチと話したい。市さん、お願いできますか?」
「はい。喜んで。」
決意を込めた言葉を吐く蝶子を見つめながら、市は深く頷いた。それを見ていた蘭も覚悟を決めた。
イチと話をして帰りたくなるかも知れない。ここで生きていく決意が揺らぐかも知れない。それでも、未来と繋がりたかった。
(イチ、父さん。随分待たせたけどもうすぐ会えるからね。)
蝶子は心の中で密かに呟いた。
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