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宇佐山城
「わざわざお越し頂いてありがとうございます。」
真っ赤に燃える比叡山の方を眺めていた信長に、可成の妻・えいが話しかける。我に返ったように振り向いた信長は僅かに微笑んだ。
「来るのが遅くなって悪かったな。」
「いえ!お気になさらないで下さい。色々とお忙しかったのでしょう?こうして来て下さって旦那様も喜んでおられます。」
そう言って可成の遺骨が入った壺を愛しそうに撫でる。信長は蓋に手をかけるとゆっくりと開けた。
「小さくなりおって……全く、戦上手が聞いて呆れるわ。」
「信長様……」
信長は震える手で遺骨を一つ取ると、ぎゅっと握りしめた。その目には光るものが見えて、えいはそっと目を逸らして見なかったフリをした。
「お前の仇は取ったからな。」
信長の目が再び比叡山に注がれる。その瞳はどこまでも暗く真っ黒に染まっていた。
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