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―――
半年前、岐阜城
「えっ!延暦寺と本願寺を焼き討ちに!?」
光秀の大声が大広間に響く。それに対して信長は冷静に腕を組みながら短く頷いた。
「あぁ。」
「『あぁ。』って……」
「あいつらは可成の仇だぞ。情けはいらん。それに延暦寺は今や堕落しきっている。修行中の身でありながら酒は飲むわ、女を連れ込み淫行するわ、村人に金を貸して激しい取り立てをするわでやりたい放題らしい。そのような寺は滅びればよいのだ。」
「で、では延暦寺だけでいいではないですか。何故本願寺も一緒に……?」
「本願寺の宗主の顕如は信玄と通じているのだぞ?この際纏めてやってしまおう。」
「…………」
光秀が複雑な顔をして黙り込む。それを見た信長は眉を潜めた。
「何だ、その顔は。お前は可成の仇を討ちたくはないのか。」
「いえ!私だって可成殿の事は無念でなりません。確かに手を下したのは延暦寺の僧兵です。延暦寺の件に関しては可成殿の弔い合戦として是が非でもやるべきだと私も思います。しかし本願寺の方は……もし今本願寺を攻めれば信玄が黙ってはいないでしょう。必ず報復してきますよ。」
「……ふむ。なるほど。そうなると厄介だな。」
『信玄の報復』という言葉を聞いた信長は一瞬で表情を強張らせた。
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