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僕は、早口でまくし立てる暁乃の前で、静かに問う。彼女はさっきから同じことばかり説明している。バイクで走ってたら道のど真ん中に野良猫が這って出てきて座り込んじゃったから仕方なくガードレールに突っ込んじゃったという話を。
「その猫ね、あたしが引っ繰り返った途端に、びくぅって身体竦ませてね、あたしがガードレールと心中未遂した横をすたこらさっさ、って逃げるようにいなくなっちゃったの。こんなんなら轢き殺してあげたほうがよかったかもね」
「そんな過激なこと言うなよ。暁乃のおかげで猫は命拾いできたんだから」
「でも、これで全治三週間の大怪我したあたしって馬鹿みたいじゃない?」
「それはお前が後先考えないからだろ」
「まぁそうなんだけどさ。それに骨折したの左だし、右手は問題なく使えるからすぐ復帰できるって。うん」
「それだけ喋れれば元気だな」
僕が呆れて溜め息をつくと、暁乃はぺろりと舌を出した。
白い病室の中で、彼女の出した舌だけが、鮮やかなほどに、赤かった。
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