中篇

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 彼女には何が見えているのだろう。  私には、私の心を掴んで離さない、きれいな彼女の瞳しか見えない。  私の心の中まで、見えているのだろうか。  私の想いまでも、見透かすことができるのだろうか。  私の目を見て満足そうに歩き始めたヒナタの背を、私はしばらく立ち止まったままで見ていた。      ○  ヒナタが選んだのは私が昨日選んだお店。  昨日来たときに彼女はかなりメニュー選びに迷っていたが、そのときに惜しくも落選してしまったモノが食べたいということだった。  だけどきっとヒナタのことだ。  そこまで高い金額にならない配慮をしてくれたのだろう。  そんなに遠慮しなくても良かったのだけれど、ここはありがたく気持ちを受け取っておくことにした。  お互いのパスタを分け合ったり食後のデザートも注文してみたり、時折入ってくるメッセージに目を通したりしている内に、気が付けばいい頃合いになる。  残っている仕事も作業も無いというのは晴れやかな気分になる――と思っていたのだけれど。  こうして、目の前に迫ってくるような月を見てしまうと、どうしても思うのだ。  ヒナタにとっての私は、いったい何なのだろう、と――。
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