中篇

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「……せーんぱい。ココ先輩?」 「……え?」  目の前で手のひらをヒラヒラと振られているのにも気がつかないくらいには、私の気分は月の海あたりにでも沈んでしまっていたらしい。 「どうしたんですか、そんな」  半笑い。 「マヌケな顔して」  ――やっぱり。 「あなたね」 「ウソですってば」  そういうと思った。  にっこりと笑ってみせるヒナタのアタマを強引に、ぐちゃぐちゃとなで回す。  あまり派手にやるといつもこの子は怒るけれど、反撃と称すれば良いだろう。  案の定ヒナタは、リスのように頬をぷくっと膨らませた。 「はいはい、ごめんなさーい」 「もうっ」  適当に謝られていると思ったのだろうヒナタは、もう少しだけむすっとした顔を作ってそっぽを向く。  だけど視線だけはこちらに残しているので、機嫌を完全に損ねたわけじゃないのはよくわかった。 「それで、何だっけ?」 「この後もういっこ、行きたいところがあるんです、って言ったんです」  完全に耳に入ってきていなかった。 「もちろん良いわよ」  二つ返事で答える。  そう答えるに決まっていた。
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