”カクタス”・フォッシャー 1

9/9
前へ
/207ページ
次へ
「エイル、残念なことにハゲタカがこいつの死肉と一緒に喰っちまったみたいだ」  砂漠で目の前にある車に乗ることができず、ただひたすら彷徨うしかないという。これじゃあまだ死刑の方がマシだ。日が出ている間は干からびて死ぬか、夜までもっても凍え死ぬかの二択しかない。俺は死を恐れないが、前からこの2つで死ぬのだけはごめんだと思っていた。  「なんとしてでも、鍵を…」  「無駄さ。カセイハゲワシは雑食性だ。自分のくちばしで噛み切れるものなら、何でも食ってしまう。それに運転席の鍵が鉄製とは限らない…」  二人目の看守から奪った散弾銃「PO92」を窓ガラスに向けて発射してみた。弾丸によって凹むものの、ヒビは1mmも入らない。  サンティもその様子を見て驚きを隠せない。  「ガラスというよりも超強化されたプラスチックの装甲みたいだ…」  「八方塞がりだな」  「諦めるしかない。体力を消耗するだけだ」  サンティは急に地べたに這いつくばり、地面の匂いを嗅ぎ始めた。暑さのあまり頭がイカれたのかと思ったが、どうやらこいつは大真面目のようだ。    「なんのマネだ……そりゃあ…?」  「俺は牛泥棒だ。家畜の匂いは鼻に染み付いてんだ。どういうわけか、この辺りの土は牧畜動物の匂いがするぜ」  この男にはどうやら根拠のない自信があるようだ。まるで舐め回すように真剣に嗅ぐものだから、演技だとしても圧倒させられる。  「……こんな砂漠にか」  「あぁ俺がいうんだから間違いない。俺の匂いに従って歩いた先に、何かがあるはずだ」  「わかった。お前の言うとおりしばらく歩いてみよう。もしかしたら近くに集落が見つかるかもしれない」  俺は奴の根拠のない自信に従い、この褐色の砂漠を踏破することにした。それが遥かに長い長い道の始まりだったとは……。
/207ページ

最初のコメントを投稿しよう!

61人が本棚に入れています
本棚に追加