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剣で死霊を切り裂いて魔法で氷結し、跡形もなく粉砕する。
剣と魔法が使えるルリエならではの戦い方により、彼女の進む道の死霊は消滅していくも、時間経過と共に死亡者が増えればジリ貧になるのは明白。
行く手には傷つき逃げ遅れた人々が泣き喚き助けを乞うが、ルリエは一切無視して死霊の撃破を最優先とする。
ーー弱いものは生きてはいけない、死にたくなければ強くなれ。
この非常事態だろうがルリエの信念は変わらなかった。別に、良心が痛むなど微塵もない、弱い奴は死ぬしかない、強い者だけが生き残れる、それが真実と言うだけのこと。
(私は強い……だから死なない!)
紅き眼に信念を宿すルリエは破竹の勢いで死霊を切り捨て、そして魔法で氷結し粉砕。
自分は強いから死なない、しかし、ルリエは肩で息をしていることに目を逸らし再び走り出そうとする。
「た、助けてください!」
聞き覚えのある声にルリエは足を止めて右手側に目を向けると、尻もちを付いて恐怖で顔が引きつったユーカがおり目の前に人型の死霊が迫っていた。
ルリエはユーカよりも死霊がいる事、倒すべき相手がいる事を認識して走り出し、接近と共に全身を使って死霊の頭蓋骨を両断して動きを止めると素早く魔法詠唱を行う。
「氷結する祈りよ凍えて詠え、ティリス・ジス・バルド!」
逆巻く冷気が死霊を包み込むが、氷結させるに至らず足元を凍らせたに留まり、舌打ちしたルリエは左手で肩にかける鞘を投げ捨てて両手で剣を持ち、力強く踏み込みながら全身を使って剣を振り抜いて背骨を両断。死霊の身体を崩して冷気に落とし、封じ込める。
直後にルリエは目の前がぐらりと歪み片膝をつき、両手をついて多量の汗を流してしまう。
「る、ルリエ様!? だ、大丈夫ですか!?」
「うるさい、黙れ……!」
心配するユーカに対しルリエの態度は冷たく、そして辛辣だった。ゆっくり立ち上がりややふらつきながらも投げ捨てた鞘を拾い、次なる敵を探さんとする。
しかし、ここまでの間に数百ほどの死霊を葬った事に加え、これ程に魔法を連続して使う事がなかった為、魔力が減った事による疲労がルリエの消耗へと繋がっていた。
流石のユーカもぎゅっと手を握り締めて立ち上がり、ルリエの後ろ姿に哀しみを覚えながらも声を震わせ彼女に問いかけざるを得なくなる。
「どうしてそんなに強くあろうとするんですか! あなた様は……どうして……」
初めてこの街に来た時に魔物に襲われたユーカは、ルリエに助けられて以来ずっと慕ってきた。本人は助けたつもりはないのだろうが、それでも嬉しかった。
今も同じように、ルリエが進んで来た道の死霊が消えた事で助かった人々が多く、ユーカはそれをちゃんと見ているし、だから余計に誰が見ても満身創痍でも戦おうとするルリエの姿に悲しみ、ぽろぽろと涙をこぼしその場に座り込んで両手で目を覆ってしまう。
そんな反応にルリエは足を止め、乱れた呼吸を調えながら振り返ってユーカに剣の切っ先を向け、冷徹に、そして凛とした佇まいで言い放った。
「私は生きる為にもっと強くなる……その為に、私は戦い続けるだけ。止まっていては、強くなれない」
そう言ってから剣を下ろしたルリエは泣きじゃくるユーカを置いて敵を求め前へと進んでいく。
涙で前が歪みながらもルリエの姿を見つめるユーカは、それがとても悲しくて寂しい事と感じつつも、初めて見た時から変わらぬ凛々しく美しい姿に見惚れてしまっていた。
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