怒穢 -2030年「ERIV30」の一幕-

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 タクミは、三枚開きにされたような顔で女がだらりと倒れてくるのを、呆然と受け止めた。  女の背後が見える。ベージュのセーターを着て、セミロングの髪の一部を赤黒く染めた若い女性。  ミサキだった。 「ミ…………サ…………っ」  恋人の名を呼ぼうとして、タクミは気がついた。喉が燃えている。  ミサキは、タクミへ馬乗りになっていた女の後頭部を、斜め上から接射したのだろう。敵の顔を食い荒らしただけでは飽き足らない弾が、女の下にいたタクミをも貫いたのだ。  久々に見た気がする恋人は、普段なら白くきれいな肌を真っ赤に染めて発狂していた。 「──!」  ミサキは銃を投げ捨て、タクミが護身用に持たせたブレードつきの多機能シャベルを取り出し、悲鳴ともつかぬ叫びを上げながら女の亡骸に叩きつける。タクミの上から血まみれの女を蹴り落とし、吹き飛ばしたはずの頭部にまで何度もシャベルを突き刺した。   「タクミ……! ごめんなさい……タクミ……!」  ミサキは、怒りながら泣いていた。  彼女は女から何かを奪った後、バックパックから安定剤を取り出し、数え切れないほどの薬を噛み砕く。そして銃を取り、よろよろとタクミの上へ仰向けに重なってくる。    次の瞬間──轟音が鳴り、ミサキの顔も吹き飛んだ。  ……自殺だった。
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