怒穢 -2030年「ERIV30」の一幕-

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 近距離の発砲で耳がバカになっているが、どこかで新たな奇声が上がった気がした。しかし……彼らがたどりつくまでには、タクミも死んでいるだろう。  ……頭ではわかっていたはずだ。  『最後の二人』など、存在しない。  ERIV30は、人類の組織化を許さないのだ。  たとえそれが、たった2人しかいないコミュニティだとしても。    タクミは呆気ない最期に無情を感じつつも、どこかほっとしていた。  もう、本来なら罪もないはずの人や、恋人と殺し合わなくてもいいのだ。 「…………サ…………キ…………」  天国でもなんでもいい。神秘的な場所や力があるのなら、願わくば、ミサキをERIV30のないどこかへ連れて行ってほしい。愛する人と自由なコミュニケーションができる、どこかへ。  タクミは最後の力でミサキの手をたぐり寄せ、手を握る。  やっと触れられた彼女に安心を覚え、彼の意識は静かに消えていった──。
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