怒穢 -2030年「ERIV30」の一幕-

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 呆然としたのも束の間。  全身が燃え上がるほどの怒りが、タクミを襲った。 「ぐ……ふー、ふー……うっ──!」  声を抑えて深呼吸しようとするが、獣の威嚇のような息遣いにしかならない。かと思えば、気分が急転して吐き気がこみ上げ、少量の胃液を枯れ葉へ垂らす。それでも怒りはタクミを獰猛な狂戦士にするよう指示し、彼は両手で口元を鷲づかみにしながら仰向けに倒れた。 「──!」  くぐもった悲鳴を両手の中にぶつけ、地面を何度かのたうったのち、体の自由が効くようになった時点で安定剤を素早く服用する。2錠だ。    飲みすぎれば、この種の抗不安薬に設定された一日の許容量を上回ってしまう。だが、怒りで体が弾け飛ぶか、町へ駆けて行って生き残りを虐殺してしまいそうな状況で、過量がどうとかいうのは些末な問題だった。   「ミサキ……!」  暴力衝動と脱力が同居するなか、タクミはいくらかの理性を取り戻した。  隠れ家へ戻らなければ。  ミサキが死んだかどうか、まだわかってはいないのだ。彼女の死体を見ればタクミは一瞬で暴徒と化すだろうが、ミサキを発見できなくとも安定剤を切らして豹変するだろう。あとか先かの話だ。    震える手でペンライトを回収し、タクミは走り出した。  ミサキの姿さえ見れば、救われる。
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