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呆然としたのも束の間。
全身が燃え上がるほどの怒りが、タクミを襲った。
「ぐ……ふー、ふー……うっ──!」
声を抑えて深呼吸しようとするが、獣の威嚇のような息遣いにしかならない。かと思えば、気分が急転して吐き気がこみ上げ、少量の胃液を枯れ葉へ垂らす。それでも怒りはタクミを獰猛な狂戦士にするよう指示し、彼は両手で口元を鷲づかみにしながら仰向けに倒れた。
「──!」
くぐもった悲鳴を両手の中にぶつけ、地面を何度かのたうったのち、体の自由が効くようになった時点で安定剤を素早く服用する。2錠だ。
飲みすぎれば、この種の抗不安薬に設定された一日の許容量を上回ってしまう。だが、怒りで体が弾け飛ぶか、町へ駆けて行って生き残りを虐殺してしまいそうな状況で、過量がどうとかいうのは些末な問題だった。
「ミサキ……!」
暴力衝動と脱力が同居するなか、タクミはいくらかの理性を取り戻した。
隠れ家へ戻らなければ。
ミサキが死んだかどうか、まだわかってはいないのだ。彼女の死体を見ればタクミは一瞬で暴徒と化すだろうが、ミサキを発見できなくとも安定剤を切らして豹変するだろう。あとか先かの話だ。
震える手でペンライトを回収し、タクミは走り出した。
ミサキの姿さえ見れば、救われる。
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