2人が本棚に入れています
本棚に追加
タクミたちが身を隠していたのは、山を少し進んだ先に展開した即席のキャンプ場だった。
広葉樹がそこそこ生い茂っているものの、山際と比べて低木が少ない。傾斜もごく緩やかなため、誤って山を転げ落ちるような心配もなかった。
万が一にもお互いが殺し合ったり、重要な物品を破壊してしまわぬよう、武器を含めた互いの持ち物はいくつかの場所に分けて隠す決まりにしている。寝る場所も異なるため、共有する空間は食事の場所だけだ。
落ち葉を片して設置した焚き火用の枝と、折りたたみの椅子が二脚。
そのひとつに、白のハードシェルジャケットとワインレッドのニット帽を身に着けたミサキが、うつむくようにして座っていた。
「ミサキ……!」
タクミはすぐさま駆け寄ろうとして──しかし立ち止まった。
果たして、ミサキに近寄っても大丈夫なのだろうか?
怒り狂っていないあたり、安定剤は服用したのだろう。だが、殺されかけるような体験をしたのなら、先ほどのタクミのように抑えられない可能性もある。
「大丈夫か、ミサキ……?」
距離を取りながら声をかけるが、返事はない。彼女はなにかをジャケットで囲い込んでいるらしく、顔を伏せているせいで表情もわからなかった。
かつてホラー映画で見た恐ろしいイメージが、タクミの頭をよぎる。ミサキは普通に座っているように見えるが、実は死んでいて、少し揺らせばバランスを崩して倒れるのかもしれない。
「なあ、返事をしてくれないか? 君が心配だ。なにがあったのか──」
驚かせないよう少しずつ近づいて、タクミはようやく気がついた。
ミサキのジャケットの背に、細かい血が付着している。
やはり、何かあったのだ。
タクミはたまらず、ミサキに駆け寄ろうとした。
叶うことなら、今すぐ抱きしめたい。抱きしめて、安心させたい。
すると、ミサキはゆっくりと立ち上がった。
なにか長いものを持って、彼女はタクミのほうへ振り向く。
「よかった……! 生きてたんだね、ミサ──」
歓喜の声が途切れる。
見覚えのない女の笑みと猟銃が、タクミを捉えていた。
最初のコメントを投稿しよう!