2人が本棚に入れています
本棚に追加
ほんの一瞬、タクミの思考が止まった。
誰だ、この女? ミサキはどうした?
だが、次の瞬間には、退避のために横へ跳んでいた。
「くふ……ひひ……!」
女の不気味な笑いとともに、轟音が鳴る。
「ぐっ……!」
タクミの右肩へ、強烈な衝撃が走った。
避けたと思ったのだが、散弾の一部が当たったらしい。
「クソが……ふざけんなっ!」
負傷しても、タクミは地面に倒れなかった。
体勢が整わぬうちから、ミサキの外套を奪った女へ突進する。
ミサキを手にかけた敵への怒りが、タクミを突き動かしたのだ。
「死んでよ……! 死ねってば!」
「死ぬのはお前だ、クソ殺人鬼がぁ!」
今までの人生で吐いたこともない暴言を飛ばしながら、彼は女へ距離を詰める。
女が持っている猟銃は、銀の装飾が施された古い水平二連散弾銃だった。おそらく、町の誰かを殺して奪ったものだろう。女は扱いに慣れていないらしく、シェルジャケットのポケットから弾を取り出して装填しようとしているが、その手間にひどく苛立っている。
女がちょうど弾を装填したとき、その痩せこけた顔にタクミが全力の拳を見舞った。
「ぶっ──」
銃を落とし、地面に倒れる女。タクミは銃に目もくれず、倒れた敵へさらに殴りかかる。
猟銃で撃てばすぐに殺せるだろうが、そんな殺し方でこの怒りが収まるとも思えなかった。この女は、生々しい感触や反動が伝わってくる方法で殺さなければ。
「お前を殺しても、音で次のやつが来る! また殺し合いになる! クソだ! 全部、終わりだ! 全員、ぶっ殺してやる!」
ところが、タクミは一気に2錠も飲んだ安定剤の筋弛緩効果で、うまく力が入らなかった。一方の女は、脂ぎった髪と病的な見た目からは想像もつかない力で反撃してくる。ERIV30による極度の怒りとアドレナリンで、タガが外れているのだろう。
会話にならない罵倒と奇声の応酬、そして取っ組み合いが続き、タクミは不利になっていった。
「あの女みたいに撲殺してやる……!」
タクミへ馬乗りになった女が、憎悪に満ちた声を上げる。
両の拳をタクミへ振り下ろそうとして──
発砲音とともに、女の頭部が吹き飛んだ。
最初のコメントを投稿しよう!