秋の暮れ

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秋の暮れ

 11月下旬の午後6時を過ぎた空は暗い。 「もう帰る?」 なんて訊かれたから肯定の返事をする。他の部員はとっくに帰ったようで人の気配はしなかった。  推薦入試も近いというのに、部室にいる先輩を気にしないことにしたのはいつからだっただろう。  部室の簡単な片付けと戸締まりをして、ロッカールームに行くと、窓が開いたままだった。電気がついたままなのはいいとして、窓の開けっ放しはやめてほしい。毎日戸締まりを押し付けられる方の身にもなってみろ。  窓に近づけば、ひんやりとした北風がロッカールームに流れ込んできた。真っ暗な空に、ぽっかりと月が浮かんでいる。 「電気消してもいい?」 スイッチの前でスタンバイをする先輩に 「まだ全部確認してません」 とだけ返し、振り向くと気のない相槌を打つ先輩が手に携帯ゲーム機を持っているのが見えた。 「何でゲーム機持ってるんですか?」 「これぐらいの校則違反はよくある」 確かによくあることだけど受験生だと話は別だ。  窓の確認をしながらロッカールームを巡回していると、ゲーム機が普通とは違うことに気づく。 「それ、ソフト同梱版の特別仕様ですか?」 「よく気づいたね?」 今どきの高校生ならゲーム機の特別仕様ぐらい知ってると思うんだが。 「そんなにキラキラしてたら気づきます」 一通りの確認を終えて、自分の鞄を取る。 「第四世代のレアキャラだよ」 なんて自慢されたが、知ったこっちゃない。昔からそういう商法はあったんだから。  どちらかといえば、気になっているのは本体じゃなくてそこに刺さっている1代前のゲーム機のソフトだ。 「そのソフトは第三世代のマイナーチェンジ版ですか?」 「うん、よくわかったね」 「弟が全くおなじことしてるんで」 ゲームは見る派だから、特徴的なソフトに既視感を覚えていた。 「……それどこから出しました?」 すっかり忘れていたんだけど、それは明らかにカバンから出したのではないし、制服のポケットに入るようなものではない。 「学ランの内ポケット」 先輩はそういって、内ポケットにゲーム機を片付けた。 「弟ので試してみよう」 なんて呟いてカバンをもつ。 「電気消しても大丈夫ですよ」 と声をかければロッカールームは真っ暗になった。 職員室に部室の鍵を返しにいく。 「じゃ、先帰る」「えっ?」 「担任に見つかりたくない。早く鍵、返しておいで」 なんて言われ早足で鍵を返す。そもそも、見つかりたくないなら来なくていいし、先輩は待たなくてもいいのだ。それなのに、何を考えているのか。 制服の下の隠し事。 基本的には校則違反。 いい子なあの子は本当にいい子? 【@hitoriasobi_botより 制服の下の隠し事。⑨】
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