春の果て

1/1
0人が本棚に入れています
本棚に追加
/5ページ

春の果て

 電車で半時間ほどの市街地の駅。さらにそこから路面電車で20分の有名温泉地。学校は振替休日で今日は平日なのに、商店街は人が多い。まぁ、世の中だってカレンダー通りの休日だけで回ってるわけじゃない。  なにをするわけでもなく、本当に観光をするだけだ。商店街の手拭い屋には、夏目漱石の『坊ちゃん』がモチーフになった手拭いと坂本龍馬の手拭いがあった。『坊ちゃん』はいいとして、坂本龍馬はいかがだろう。ここは松山道後だ。  商店街を道後温泉本館の方へ歩いていると、既視感を覚えた。既視感を頼りに人波を見渡せば後輩が現れた。 「何してんですか?」 「観光。そっちは?」 「用事ついでの観光です」 傍らの煎餅屋で買っただろう煎餅を頬張る後輩は普段通りマイペースだ。 「お昼時だけど、ご飯は?」 「帰って食べようと思ってます」 「一緒にお昼どう? スイーツの美味しい喫茶店があって、そこに軽食もあるけど」 「スイーツは気になります」 予想通り後輩は食いついてきた。  喫茶店でランチを食べながら、どういうわけか英語の個人授業をした。後輩どの教科も平均点を取っているが英語と体育だけは苦手なようで、どうにもこうにもできないらしい。まぁ、担当教師との相性もあるしなと思う部分はある。 「英語キライ……。そういえば、夏目漱石って松山で英語教師だったんですよね」 「今の東高でね」 食後のデザートを食べながらそんな話をする。 「足湯でもして帰ろうかな?」 窓から見える空を眺めて後輩がぽつりと呟く。 「仰せのままに」  後輩の足湯になんとなく付き合いながら、かき氷を食べたり、道後ソーダなるものを飲んでみたり。 抜けるような青い空に白い雲が流れていく。 もうすぐ、梅雨もあけて、本格的に夏がはじまるんだなと思った。 【@0daib0tより 後輩、漱石、個人授業】
/5ページ

最初のコメントを投稿しよう!