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僕が席に座っても、彼女は、ずっと本に目を落としたままだった。
よほど面白いのだろう。
「何を読んでるの?」
「この間買ったミステリー小説よ」
「ああ、あれか。東野圭吾の」
「うん。今キリの良いところまで読んじゃうから」
読書好きの彼女は、本の中へダイブしたまま。
僕は窓の外をぼんやりと眺めた。
半分ほど空いた駐車場には、白、赤、黒、青、緑とバラエティに富んだ車が停まっている。それぞれ形の異なる車は、それほどピカピカでもないのに、どこかショールームに展示される見本のように僕には思えた。
「お待たせしました」
「ありがとう」
お礼を短く言って見上げると、さっき僕を案内してくれた店員さんとは違う人だった。
「それで機種変は無事に終わったの?」
遠くの方で、パンケーキの皿を二つ乗せたおぼんが、運ばれていくのが見えた。カップルらしき男女の二人に皿がサーブされるのを見ながら、そのまま目線を彼女にスライドさせた。
「ごめん。結局できなかった」
僕は正直に告げた。
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