2 そして、10年後

2/8
前へ
/12ページ
次へ
 そんなある日、オレの宿に冒険者の一行が訪れた。  勇者を自称する若い男と連れの戦士、魔王使い、僧侶という何度となく見たパーティー編成だ。なんでも国王からの命を受け、大魔王の子孫を滅ぼすべく旅を続けているのだという。  見たところそこそこ腕の立つ連中のようだった。自称勇者も人当たりの良い朗らかな男で、宿の食堂で夕食を振る舞った際に「この辺に腕試しになる強い魔物はいないか?」とオレに訊ねた。 「それなら西の森の奥に人食い竜が棲む洞窟がありますよ」  かつて魔王に連れて行かれた例の洞窟のことだ。魔王の親子が瞬殺したあの二頭の他にはもう竜はいないかもしれないが、他にも手強い魔物が巣食っているという噂を聞いていた。 「なるほど、人食い竜か。なかなか面白い戦いができそうだ」  勇者が口の端をあげてキザに笑う。  それに追従するように戦士、魔法使い、僧侶も声を上げて酒の入った木のジョッキを掲げる。 「そいつはいい。倒して名をあげれば今後訪れる街でも色々と事が運びやすくなる」  端がカールした口髭を撫でつけながら魔法使いの男がズルそうにヒヒッと笑った。 「我が剣の腕をもってすれば人食い竜など何頭いようと敵ではあるまい」  戦士が壁に掛けてあった大剣を手に取ると、その刃に自身の顔を映して恍惚の表情を浮かべる。 「では、とりあえず今夜は早めに休んで、明朝に洞窟へ向かうとしましょう」  僧侶が一同を見渡して厳かに言った。声には威厳があったが、酒に酔った頬は赤く、どこか田舎臭さが抜けない。  せいぜい竜の恐ろしさに縮み上がるがいいとオレは心の中で連中の能天気さを嘲笑った。
/12ページ

最初のコメントを投稿しよう!

3人が本棚に入れています
本棚に追加